~幕間~
★春日香織は帰りを待つ
「ちょっと
「今日は半日だからいらないって、昨日言ったよ?」
「あ……れ……?」
そんなはずはないと天井に視線をやる。
……あ。
「ほら、姉さんってたまに抜けてるもんね」
弟はケラケラと笑う。
「抜・け・て・ま・せ・ん。……じゃあそれ、置いていっていいから!」
「冗談だって、そんなにいじけないで。そうだ、帰ってきたら一緒に食べようよ。……よし、行ってきます!」
「なんだか異様に張り切ってるね? ま、行ってらっしゃい」
弟はいつも気を使う。ことあるごとに、そこまでしなくてもって言うけれど、わたしとは違って人に気を配るように育っていった。
祐を一人にはさせない。寂しい思いはさせない。初めこそは両親の為に捧げた約束だった。
二人きりになってからは、楽しいことばかりではなかった。むしろ苦しいことばかりだったけれど、一度もぶつかり合うことはなかった。
昼前、テレビをぼんやりと見ていた。いざ休日になると何をしていいのか未だにわからない。仕事に没頭していればそういう不安もないのだけれど。
いつも悩みすぎだと祐には言われる。多分そうなのだと思う。思考がこうなってしまうとキリがないのもいつものことだ。
一旦何もかも忘れようと、テレビを消してソファで再びぼんやりとしていると深く眠気が増していく。
ぼんやりとうつろうつろとしていると、外の方から何か大きな音が響いた。
直後、男性の怒号と女の子の泣き叫ぶような声が聞こえる。
何か大変なことが起きているのは明らかだ。
けれど、まぶたと体は重くてすぐに動けそうにはない。
無音の空間に一人ぼっち。
薄れ行く記憶の中、家族皆で暮らしていた日のことを思い出していた。
年上なんだから、お姉ちゃんなんだから。しっかりしないといけない。そんなことわかっている。
それでもわたしだって、
……いまさら、こんなことを言っても叶うはずもないのに。
あの子が帰ってきたらいつものように振舞おう。
あなたを一人にはさせない。寂しい思いはさせない。どんなことになっても守ってみせる。
――視界が段々と狭まり閉じる間際、テーブルの上に置かれた青い弁当箱が見えた。
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