五月七日 その二
「え、何で君が?」
だろうな。目を丸くするという言葉は本当みたいだ。
縁のないはずの、ましてや知らない人間から言われたら誰だって驚く。
「春日君のお家に行った事があってね。その時お姉さんから聞いてたから、相馬君ってもしかして君の事なのかなって」
「ああ……あいつの家に。それでなんだ、ありがとね」
俯き気味の和輝はそう言うと小さく微笑んだ。
「でね、ちょっと聞いておきたい事があって」
「うん、何?」
「春日君とは仲がよかったの?」
それをどうしても確かめたかった。ただのわがまま。思っていた答えじゃなかったとしてもいい。でも、もしそうだったら悲しいな。
「うん。一番の親友」
……即答とかさ。
「そう、なんだ」
それから空を見上げながら彼の言葉が続いていく。
「いなくなったのが信じられなくて。まだ近くにいるんじゃないかって、あちこち探しちゃうんだよね。今日だってさ」
彼がそう口にしかけたところで、ちょうど夕方の5時を知らせるメロディーが流れる。
思わず「ここだよ」と、僕はこの音に紛れてそう口にしてしまう。聞こえているはずもないのに。
それが鳴り終わると和輝は驚いた様子で、
「ええっと、冬月さん。どうかしたの?」
「だって君が泣いてるから。なんだかこっちも悲しくなって……」
「え、あれ? おかしいな。おっかしいな……」
慌てた様子で目元を隠しながらそう呟くのが聞こえた。
「でも、ヒロがおれをどう思ってたかわからないんだよね。そういう話ってした事ないからさ」
「きっと、春日君も同じ事考えてたんじゃないかな。きっと……そうだよ」
和輝に別れを告げた帰り。できるだけ人通りの多い道を選ぶ。
ふと考えていた。残された時間、自分じゃない自分で皆にあと何ができるだろう。
そして――。
僕がいなくてもそれぞれの日常はこれからもずっと、ずっと続いていくんだ。
***
「おっかえり~、まひろ! あれ、何か元気出たみたい?」
「うん、まあね。今日出掛けてよかったよ。ありがとねルナ!」
「えっへん。どういたしましてっ!」
ここに来る事を決意した時よりも遥かに、考えていた以上に今が辛い。本当は逃げ出したい。これは本当の僕じゃないんだからそうしても誰にも責められはしないだろう。いや、責められる覚えなんてない。
でもそれは皆だって同じはずなんだ。誰にも言えなくて悩んでいるに違いない。
だったら僕はここで負けたりなんてしたくない。
どうせ誰の記憶にも残らないのなら、もうなり振り構っていられない。
いつも以上に痛々しいくらい賑やかに、最後まで自分らしく
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