第2話 それはご褒美足り得るか
「つまり、そのマジカルフィールドってのは現実世界でのネガティブな感情の掃き溜めで、集められた感情の処理を任せられているのが俺たち魔法少女って事か」
「まぁ、噛み砕くとそんな感じポヨね。魔法少女と言うよりは、魔法と言う対価を支払う代わりに負の化け物、ネガーティブを倒して貰う契約社員ポヨ」
契約社員・・・そんな具体的な例で説明しなくても・・・と、逸らしていた事実を突きつけられたキサトは苦虫を噛んだような表情になる。
魔法少女以前の木佐斗、まぁ以前の雇用形体がソレだったのだ。
高校卒業で企業への就職。ある程度機械への知識はあった為、そこそこ使える人材として数えられていたのだが大学卒と比べると果てしない給料の壁があった。
だけど、それでも、頑張っていればいつか報われるだろうとやってきたのだが一年前、勤めていた会社が倒産。何やかんやあって転がり込んだのが現在勤めている会社である。その何やかんやの関係で正規ではなく、契約だったのが悩みだった。
だが、その悩みは過去形である。
何故かどうしてか、現在はTSとも呼ばれる超常現象的性転換で魔法少女に転職し、日曜朝的なネーミングの敵との戦いを強いられると言う色々吹っ飛びすぎて悩みが吹っ飛んだ職業に就くことになった。
良いのか悪いのか。人によって意見が分かれるところであるが、木佐斗にしてみれば乗りかかった船。願ったり叶ったりな状況であった。
今年で23歳と言う、もう学生気分が完全に通じない年齢になり、社会人としての立ち振る舞いも求められる様になっている。
つい先日、新入社員として大卒の子が2人入社したのも社会人としての立ち振る舞いを考え直さなければならなかった一つの原因であるが、そんな年齢的、立場的に、夢とか理想とか。学生の時に考えていたお子ちゃまな考えを捨てざる終えなかった訳であるが、今を見てみよう。
曇った鏡しかないが、映ったその姿は、23にしては若干老けていた男の姿ではなく、今をトキメク女子高生、女子大生のような若々しい容姿であり、身に付けている服なんて成人とは一切関係ない乙女チックなものである。
この姿を見て、誰が社会的な責任を求めると言うのだ。ハゲ散らかした50過ぎのおっさんが唾を吐き散らしながら、こんな幼気な美女を罵れる理由がどこにあるのか。答えは否である。
そんな事をしてみたら嬉々としてネット叩きの標的になるだろう。それかそう言うプレイを楽しんでいるのかな? と思うかの二択だ。
まぁ、兎に角、色々と取り繕ってみたが、何もかも捨てて魔法少女になれるなら何でも良いじゃん。と言うのが木佐斗の本心だった。
それを口に出すと変態だと、異常者だと思われるので言っていないだけで、内心ではウキウキの嬉々乱舞だった。ハムスターには見抜かれて居る様であったが。
そんな訳で魔法少女として、正式に活動していくことになった訳だが、キサトは一つ疑問が浮かんだ。それは今朝のニュースの事だった。
「魔法少女としてやってくのには別に構わないんだけど、その、ニュースとかで取り上げられて身バレとかしないよな・・・? いや、この容姿で俺ってわかる奴はそうそういないと思うけどさ・・・」
そうそう居ないと言うか、木佐斗の要素を一切抜かして美少女化した姿を見て、木佐斗だと認識できるのは、テレビに映った芸能人を見て「あれ俺の彼女だから」と宣う馬鹿と同レベルの人間しかいないだろう。つまりは居ないって話。
でも、ソレでも気になるのが男のサガである。まぁ、サガというよりは世間体を気にするって話なのだが。
そんなキサトの杞憂を鼻で笑うポヨ。喧嘩売ってるのか? と若干ピキる。
「身バレは絶対しないポヨ。と言うよりその姿を見てキサトだと思うのは脳の病気だと思うから関わらない方が良いポヨ」
「そ、そんなにか」
「・・・キサトはこの姿を見て、腐り果てた社会の藻屑のような肉体を連想するポヨか? 自意識過剰ポヨ? 似ている点は哺乳類って点だけポヨ」
「そ、そんなにか・・・」
既に同じ人間のカテゴリーにされているのか、の疑問さえ湧き出そうな似ている点であるが、確かにと思う所はあった。まぁ、似ても似つかないよねって話である。自意識過剰であった。
でもそこまで不細工でもなかった気がするんだけど・・・と、藁にもすがる心持ちでいたが、その話題は終わった様である。
「因みにキサトが見た朝のニュースは、あのテレビ筐体だけをジャックしたポヨで、そもそもマジカルフィールドと現世は隔離された世界ポヨから、一般の人が魔法少女を見る事は到底叶わないポヨ」
「隔離された世界?」
「そうポヨ。と言うよりその話はさっきしたと思うポヨ・・・。別の世界だから見る事も出来ないし、触る事も出来ない。だから魔法少女で無ければこの世界に居ることが出来ないポヨ」
「あー、そう言うことか。やっと理解した」
「遅過ぎポヨ。最近の中高生でももうちょっと早い段階で順応して魔法少女してるポヨ」
「歳の問題って奴? だな」
「知能の問題ポヨ」
実際のところ、話自体は聞いていたのだが、魔法少女になった自分に見惚れていて、右から左に流れていたってのが原因であるが、その話は誰も知らないところである。自覚したとしても、言い訳として使えるほど高等なものではないので、胸の内に秘めるしかないのだが。
・・・・・・・・
暗黒ハムスター(見た目)こと、ポヨからこのマジカルフィールドの事を聞き、ネガティーブの親玉であるメッチャワルイヤーツを倒さなければこの世界から出られない事を聞いたキサト。
初陣とも言える藁人形型のネガティーブを難なく倒した事で、戦闘能力には問題は無い。であれば、このまま敵の根城に突っ込むぞ! と意気揚々なキサトであったが、ポヨに静止させられる。
「んだよ、目的はメッチャワルイヤーツって奴を倒すって事だろ? なら早い方が良いじゃないのか?」
「・・・キサトはRPGでレベル上げをしないでボスに挑むポヨか」
そう言われキサトは考える。幼少期に買ってもらったゲームの数々を。
数秒考え、格闘ゲームとシューティングゲームしかやってこなかった過去を思い出し、RPG系は苦手なんだと思い至る。何事も時間がかかるものは嫌なんだと、戦える武器があるなら挑んだ方が楽しそうじゃん? と。
思い至ったのだが、ポヨの言葉を聞いて考える。レベルアップとは。
「リアル世界でのレベルアップってなんだろうな。資格取得とかか?」
その場合、この状況での資格取得とは何だろうか。魔法発動の扱い免許とか? 魔法武器の取得免許とか? そもそもの魔法少女としての活動免許とかあったら嫌だなぁ、と考える。
そんなまさかはなかったようで、
「レベルアップは別の表現だったポヨけど、1人ではメッチャワルイヤーツには勝てないポヨ。挑む為には仲間を集めるポヨ」
「仲間? 仲間ってこの世界に他の魔法少女が居るって事か?」
「そう、居るポヨ。キサトに見せたあの映像も、ポヨが盗撮して加工したものポヨから、探せばあの子達もこの世界にいるポヨ。時間が合うかどうかは知らないポヨけど」
「盗撮って・・・だから建物の影とか、ローアングルなものが多かったのか・・・って、時間が合うかってどう言う事なんだ? この世界にいるんだろ?」
労働基準法があーだこーだで、休みをとっているとかで会えないとかか? でも、死ぬかボスを倒すまで出れないんだろ?
ポヨとの会話を思い出すが、元の世界に戻れるって話はその二つしか出てこなかったのだ。他に条件があるのか? と考えていると
「あの子達は現役の学生ポヨから、放課後とか休みの日が主な活動時間なのだポヨ」
「は? 戻れないんじゃないのか?」
「領収書を持っていたら出入り自由ポヨ」
「ソレって・・・」
「買った時に色々と言われたと思うポヨ。それでも拒否したのだから自業自得ポヨ」
「返金どうこうって言われて、それが出入り自由ってどうやれば繋がるんだよ・・・」
だからあそこまで領収書はいらないのか? って聞いたきたのかと理解する。自業自得と言うよりも、返金と隠語を使って聞いてくるのは些か意地悪ではないのか? と考える。やり方がパチ屋の換金所的なものなので、初めての人には優しくない。
はぁ、と深いため息を吐き、理解する。
「って事は俺はこの世界で生活しなきゃいけないのか? ネガティブーンとか言う化け物がいるのに?」
生活への危機感を覚える。
「そうポヨね。まぁ、そんじょそこらの雑魚ネガティブーンには簡単には死なない丈夫な体をしているから大丈夫ポヨ」
「・・・防弾チョッキ着ているからって撃たれて良い理由にはならないんだぜ?」
殴られたら痛いだろうし、襲ってくる明確な敵がいるのに熟睡は出来ないだろう。帰れないから、死なないような体があるポヨ! ではなく、そもそもの安全圏を用意してくれよ、と別なベクトルに向かった対処法を持ってくるポヨにツッコむ。
何を言おうとも、最終的には「領収書を貰っていないキサトが悪いポヨ」になるのでそこまで突っ掛かりはせず、大人しく聞く。
「その為の食事、排泄しなくても良い体ポヨ。理由はマジカルパワーって奴ポヨ」
「他の対処をして欲しかったけどな」
「・・・その為のその体ポヨ? ポヨは見てるだけポヨ」
濁った鏡で確認する。
「よし、って事は仲間探しの旅だよな! 放課後とか、休日ってどこで知るのか分からねぇけど、探すぞー!」
ポヨが居る端末は腰に装着されているので、冷め切った表情はキサトに見られる事はなく話は流れた。まぁ、もし見られたとしてもハムスターの喜怒哀楽とか一切分からないのでポーカーフェイスと言っても過言ではないのだが。
やろうと思えばホログラムとして端末から飛び出すとこも可能だが、そうするとキサトのアレコレに臨場感を持って対峙しないといけなくなるので、そのままの音量スピーカー状態で会話を続ける。
「日付と時間はこの変身端末プリティーマジカルフォンで確認出来るポヨ。ついでに魔法少女としての能力もこのプリティーマジカルフォンを媒体として使えるポヨ」
「魔法少女としての能力? 必殺技とかって事か?」
そう言って腰に装着してあるプリティーマジカルフォンを手に取る。時刻はちょうど18時を回ったところだった。
画面を操作し、マジカルアイテムとのアプリがあるアイコンをタッチする。すると、プリティーマジカルフォンを中心として黒いモヤが掛かり、その形を徐々に長いステッキの様なものに変えた。
大きさは大体1メートルちょっと程で、先端にはゴテゴテとした装飾がされている真っ黒いステッキだ。
その姿は魔法少女が使う可愛らしいものではなく、ちょっとR指定が高めの魔女が使ってそうなものだった。
「・・・基本的な使い方は自動的に頭の中に入っているポヨ。試しに使ってみるポヨ」
と、ポヨの言葉通りに試してみる。
確かに、キサトの頭の中には使い方が元々知っていたかのように入っているのだが、如何せん効果がどの程か、どんな感じになるのかまでは理解できていない。取り敢えず、現在地が路地裏であるので、若干上に向けて、障害物がないようにステッキを向ける。
「『トゥルーオブダークネス』!」
必殺技的な掛け声を出し、力を込める。
その言葉に反応するように、最初に変身端末を覆った黒いモヤがステッキの先端から溢れ出し、霧状に拡散し、大きく広がる。それはまるで夜空を見上げた時のような真っ暗そのもので、1秒にも満たない、瞬きよりも早い時間で夜空が広がった。
キラキラと見える月明かりの様な光に目を奪われるが、この必殺技はステッキを構えているだけ発動するようで、そろそろ良いかな? と、キサトはステッキを下ろした。
夜空はそれに遅れる形で飛散し、残ったのは抉り取られるようにして無くなった視界に映る路地裏に建っていた建物と、歪な半円状で雲が切り取られた夕暮れの空だった。
首を傾げ、理解出来ず、もう一度試しで軽めに近くの壁に向けて放つ。
「『トゥルーオブダークネス』」
唱えて、すぐに止める。
残ったのはスプーンで抉ったアイスカップのように、抉れた壁だった。
次はステッキを地面に置いて、試しに壁に手を付けて唱えてみる。
「『トゥルーオブダークネス』」
モヤが手に掛かり、少し慌てて手を振るってしまう。だが、痛みは決してなく、代わりに起こったのは振るったモヤを象徴するように抉れた壁だった。
出すのを止め、ステッキを手に取り、杖のようにして体重を預ける。空の跡は、風で流れ始め、空いた穴を埋めるように雲が流れている。視界を動かすと最初に発動した名残の抉れた建物が見える。息を吐き、息を吸う。
意を決して口を開く。
「俺、魔法少女じゃなくね・・・?」
どちらかと言うと魔法少女に立ちはだかる悪役的な魔法の能力なのだ。
無慈悲に消滅した魔法の名残は、発動した時には何の抵抗も感じず、ただ無抵抗に抉ったと言う感覚すらない消滅である。
「魔法少女ポヨ。まぁ、他の魔法少女とは違ってポヨが黒かったり、契約者が成人男性だったりで色々と条件が違うけど、漆黒の魔法少女ポヨ?」
「あー・・・ね?」
色々と考え、それって物語的には悪役の方だよね? とか諸々考え始めたキサトであるが、ふとした時、霞んだ鏡に自分の姿が映る。
その姿は、苦労し、毎日が悩んでいた木佐斗ではなく、圧倒的美少女であり、スタイルが抜群で悪を倒せる力を持っている魔法少女であった。
悩みは木佐斗に置いてきた、残ったキサトには何が残る? 魔法少女としての使命が残る。
であれば話は早い。
脳死で魔法少女活動をすれば良いのだ。過ぎた力は身を滅ぼすが、力に飲み込まれなければそれは人を救う力になる。
この力であればメッチャワルイヤーツも単独で倒せるんじゃないか? と思ったが、それでは折角の魔法少女な意味がない。中高生な魔法少女が居るのに、中身成人男性な俺が1人出しゃばったら大人気ないってもんだ。
仲間と協力し、涙し、努力し、勝利を掴む。魔法少女であっても、魔法が使えるだけの少女であるのだ。
「・・・あ、そう言う事か」
何で俺が魔法少女に? との疑問は多々あった。どうして今をトキメク女の子ではなく、青春が過ぎ去った残りカスな成人男性を? と考えていたのだが、そもそも大人が子供に出来る事は『困ったときに助ける』である。子供にとって大人は頼りになる存在だし、憧れ、目指す存在であるのだ。
と言う事なら、俺が、今、魔法少女として存在している理由は、魔法少女にしては強すぎる能力を持っている理由は、メッチャワルイヤーツを倒すって言う精神的な成長を陰ながら手助けする事ではないのか?
であれば理解できる。まぁ、それでも何で俺が? もっと適した人材がいるんじゃないのか? と思ってしまうが、何らかの理由があるのだろう。
つまるところ、これが物語とするなら、社会から逃げ出したい成人男性が魔法少女として活躍する話ではなく。魔法少女として、友達と協力し、成長する彼女達、と言う物語を、陰ながら、大人として手助けする話なのだろう。
「って事だよなポヨ!?」
「何の脈略もない問いだけど、多分そうポヨ。何考えてるか分からないポヨけど」
そうと決まったら物語の主人公である、本物の魔法少女達を探さないといけない訳である。
歩き、迷い、どこなのか? とポヨに聞くと、この端末で近くの魔法少女の場所が探知できるのだ。と、変わらぬ声色で説明され「なら、最初の仲間を探す云々で説明しろよ・・・」と思ってしまうキサトであるが、
「話をする前に、話を進めるから言えなかったポヨ。・・・でも、ある程度目的が定まったなら良いポヨ。ポヨはハムスターだから難しい事は分からないポヨ〜」
と言われ、フワフワとホログラム姿で飛んで行った。少し進んで振り返り、
「ポヨが一番近い魔法少女を案内しても良いけど、キサトが自分で見つけるポヨか?」
ならそう言ってくれよ、と言葉足らずなポヨを恨むが、まぁハムスターだし良いか、と諦める。絶対ハムスターではないのは確信的だが、深く考えていては埒が明かない。
急いで追いかけた。
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