第2話1-2

 竜走。この世界のスポーツの一種で「ドラゴンレース」とも呼ばれている。

 空を飛ぶ竜人と騎手とでペアを組み二人一組で規定のコースを飛びタイムを競う競技で、この世界ではオリンピックの種目にもなっていた。ダイナミックに空をかけるドラゴンとそれを繊細に指揮するライダーとの息の合った飛行は見るものすべてを魅了する。

 ただこれほど人気のある競技であるにもかかわらずその競技人口はとても少ない。理由は簡単で、まず単純に片方は竜人でなければならないという制限があるためだ。一応現行のルールでは飛べる種族ならば誰でも参加可能ではあるのだが、竜と比べると馬力が違いすぎるし、それに例えば鳥タイプの人なら鳥人用の競技があるため竜走の方に竜人以外の競技者はまず流れてこない。

 またライダー志望だったとしてもペアとなる竜人がいなければそもそも飛ぶことすらできないのだ。競技を始めてみたいと思ってもペアとなる竜人を見つけることができずに諦めてしまうという初心者は少なくない。そういったわけで競技竜走は最初の一歩がとてもハードルの高い競技であった、


 それでもなお竜走をしてみたいというのなら一番の近道は何かしらのチームに近づくことだろう。例えば社会人チームやクラブチーム。本格的なチームに腰が引けるのなら、数は少ないが大きなスポーツジムなら竜走体験コースがあるかもしれない。あるいは学校の部活動でという選択肢もある。ただ残念ながら競技竜走の部活がある高校は全国に50校もない。


(でも!この学校にはその竜走部がある!)


 入学式、その後のホームルームが終わるや否や、他の部活の勧誘合戦の波を潜り抜けたみさおは学校裏門を出てすぐの山道を自転車で駆け上がっていた。下調べはしっかりしてきた。学校裏山の中腹にある第三グラウンド。そこが竜走部の活動場所だ。

 竜走部がある高校は全国に40校ほどだが、そのうちの一つが自宅から通える範囲内にあったのはまさに幸運だった。通える距離と言っても山を一つほど越えないといけないのだが、それでもみさおには大した障害にはならなかった。その理由が単に新しい電動自転車のためだけではないことは言うまでもない。


 さて、こうして軽い足取りで自転車をこぎ目的の第三グラウンドまで来たみさおであったのだが……


「あ、れ……?」


 殺風景なグラウンド。そこには今到着したみさお以外人っ子一人見えなかった。


「あっれー?ここであってるよね?」


 慌てて入り口近くの看板を確認するがそこには確かに『私立春風女子高等学校 第三グラウンド』と書かれている。不安そうに周囲を見渡すみさお。第三グラウンドは非常にシンプルな造りでグラウンドの他には屋根付きのベンチと外トイレ、そして倉庫代わりだろうか小さなプレハブ小屋ぐらいしかない。そしてそのどこにも人の気配はしなかった。


「えー、ウソー……もしかして今日、竜走部休みだった……?」


 思えば確かに今日は入学式その日である。大規模な行事が行われる日は部活が休みになっていてもおかしくはない。あるいは他の部活のように新入生の勧誘に出ているのかもしれない。みさおはここに来ることに気を取られていたため、どんな部活が勧誘を行っていたのかをちゃんと見てはいなかった。


(どうしよう……ここで待てばいいのかな?でも今日はもう来ないかもだし、それなら一度下に戻ったほうが……?)


 想定外の事態にどうしようかとあたふたするみさおであったが、ここでグラウンドの入り口の方からふと声が聞こえてきた。


「おやぁ?どちらさんかねぇ?」


 みさおが振り向くと同じ春風女子の制服を着た小柄な女子生徒がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。みさおよりも小柄な130cm程の少女。みさおは一瞬同じ新入生かと思ったが、返事をする寸前で自分と制服のタイピンの色が違うことに気付いた。


(あっ!タイピン青!……三年生!?)


 みさおは慌てて背すじを伸ばす。


「あっ、えっと、私新入生で……竜走部の見学に来たんですけど……あの、ここ竜走部のグラウンドでいいんです、よね?」


 それを聞くとたれ目でダウナーそうな三年生はうれしそうな顔をした。


「おぉ新入生か~。そうだよ、ここが竜走部の第三グラウンド。待たせちゃったかな?まさかこんなに早く見学者が来るとは思ってなかったからねぇ」


「あ、い、いえ!私がホームルーム終わってから速攻で来たんで、気にしなくてもいいです!」


「あはは、速攻かい。いいね元気で。将来有望だ。私は部長の一ノ瀬いちのせ瑞希みずき。ようこそ、竜走部へ」


 そう言うと竜走部部長・一ノ瀬瑞希はにこっと笑った。

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