第3話1-3
竜人と騎手とがペアを組み空を駆けるスポーツ・
――――――――――――――――――――――――――――――
(この人部長さんだったんだ。私と同じくらいの背なのに……あ、でも部長さん、見た感じうさぎタイプの人なのかな?)
一ノ瀬瑞希。春風女子の三年生で、ややダウナーな雰囲気が特徴的な竜走部の部長。髪はあまり頓着がないのかややぼさぼさとしたミドルヘアで身長はみさおと同じくらいの130センチ前後。
ただよく見てみれば髪の横からはロップイヤータイプの耳が垂れているし鼻の頭もほのかに黒い。これはうさぎ系統の人間の特徴だ。ちなみにうさぎ系統は全体的に小柄な種族で、瑞希の130センチはむしろ平均的な体格だった。
そんな瑞希は「ここじゃ寒いから」とプレハブ小屋の方へと歩いていく。その手にはチャラリと鍵らしきものが見えた。
「プレハブ小屋……あそこが部室なんですか?」
「そーそー。あー、いや本当は倉庫なんだけどね。実質うちの部室兼更衣室ってとこ。ちょっと狭いけど、まぁうちは今三人しかいないから十分使えるよ」
「へー……えっ!?部員って三人しかいなんですか!?」
「そう。うちは今部員三人しかいないんだよねぇ。三年生が私一人で二年が二人。しかもドラゴンタイプは二年の子一人だけでねぇ」
「そう、なんですか……」
それを聞くとみさおはあからさまにがっかりとした。数少ない竜走部がある学校なのでもっと部員がいると思っていたからだ。確かに部活で竜走を選ぶ人はそう多くはないと知ってはいたが、しかしいざこうも不人気っぷりを見せつけられるとさすがにちょっとショックを受ける。
加えて竜走はその名の通り竜系統の、ドラゴンになれる人間がいなければ話にならない。それなのにその部員が一人しかいないということは思ったよりしっかりとした活動ができないかもしれない。そんな不安を感じ取ったみさおに気付いた瑞希はどうにか慰めようとする。
「あーごめんよぉ。でもまぁ二年の子はそこそこ早く飛べる子だからあんまりがっかりしないでよ……と、噂をすればってやつだね」
瑞希の視線の先を追えばちょうどグラウンド入り口に自転車を停める二人の影が見えた。うちの片方には立派な翼としっぽが生えているのが遠くからでもよく見える。二人は並んでプレハブの方に、みさおたちの方に向かってまっすぐ歩いてきた。
「お疲れ様です、部長。その子は一年生ですか?」
「あら~入部希望の子ですか~?早速新入生ゲットですね~」
向かってきた二人のタイピンは共に黄色。話に出てきた二年生二人は彼女たちのことだろう。みさおはぺこりと頭を下げ、数日前からこっそりと練習していた自己紹介を行う。
「は、はいっ!1年1組、北条みさおです!ライダー希望でライセンスはD級持ってます!」
このみさおが今行ったライセンスというのは競技竜走のための様々な技術を取得していることを証明するものだ。持っていなくても竜走はできるが持っていると幾つかの事務手続きをスムーズに処理することができる。D級はその中でも未成年でも取れる一番簡単なものだが、それでも最低限の試験や教習を行わなければならないので入手にはそれなりの手間がかかる。つまりそれだけ竜走に対して熱意があるということだ。
「あらあら~。ライセンス持ちだなんて、将来有望な期待の新人ですね~」
「へぇ、部長の知り合いですか?」
「うんにゃ、私も今会ったばかり。それにしてもライセンス持ちかぁ……もしかして今日、騎乗服とかも持ってきてるのかな?」
「はい!メットもハーネスも持ってきてます!」
「おおっ、やる気満々一年生だねぇ。それじゃあ……」
瑞希が二年生の方に、背の高い竜タイプの先輩に目をやった。すると意図を察したのか彼女はにこりと笑って見せた。
「じゃあせっかくだからちょっと乗ってみるかい?」
「えっ!いいんですか!?」
「もちろん!ようこそ。春風女子竜走部へ!」
そう言ってみさおを見つめる先輩たちの顔は皆優しい笑顔であった。
(すごい!本当に飛べるんだ!)
先程までは部活の規模にがっかりしていたみさお。しかし今はもう関係ない。大事なのは飛べるかどうかだ。みさおは今、空を駆けるという夢が叶うということに素直に感動していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます