実在の人物・団体に一切の関係はありません

@tiepiso

別れ話でWow 身を焦がす

「ラストシーン、あれは良かったね」

「べつに」

地下街の音が反響する、狭い喫茶店。ベンチシートはすし詰めで、隣席の婦人のコートが身振りに合わせ、彼女の白いダウンジャケットに擦れ合う。不機嫌な様子は、決してそのためではないが。

「ちょっと前にネットで見たやつ、あっちのが良かった?」

「べつに」

「あ、あの人、ほら。さっき悩んでた服っぽいの着てるよ。ほらほら、あの人。あんな感じになるんだ」

「......」

「結構似合いそうじゃん」

「知らないけど」

「ああいうアウターって色悩むよねー」

「ううん」

「そう?青いのも可愛いと思うよ。いっつものアクセサリーと合うし」

「むり」

「そっかー...」

「うん」

「......」

「......」

通常営業だ。

グラスの氷が中ほどまで溶け、鈍い混ざりものが出来上がっている。彼女の頼んだ小さなケーキは、ほとんど手を付けず潤いを逃し続けていた。

「次、どうする?」

「帰る、友だちと通話するから」

「了解...あ、カツサンドの話してて食べてないじゃん!買ってく?」

「いらない。ご飯食べない」

地階に出ると、ぶわっと秋の風に押された。彼女は、アウターの裾のほつれを見ている。指を忙しく遊ばせていたが、手を繋ぐといつもの完全弛緩モードに入る。ぐんにゃりとして何も受け止めない小さな手、大きくて狭い意地を感じる。

「......」

ロータリーにある、巨大な螺旋状の構造物。秋色のイルミネーションに見とれる人波に、僕たちも倣う。

「きれいだね。クリスマス意外でもやってくれるのは流石大きい駅、って感じだ」

「うん」

ぼうっと見ているその先は、電飾ではなくステンレスの反射のようでもあった。

「ねえ」

手を離す。

「あっちに車停めてるんだ。送っていくよ」

一歩引かれる。

「電車でいい」

「......そろそろ、さ」

肩に手を伸ばす。

「行かない!!」

ばしん、と弾かれる。慣れない暴力、腹から逆袈裟で。

「あ...ごめん、ごめん...。ごめんね。まだそういう感じじゃ、ね...」

「まだとかじゃなくて!」

しょっちゅうこういう事があるポイントなのかな。視線が全方位から突き刺さるが、手練の通行人たちは誰も目を向けない。

「そういう事するために一緒に居るんじゃないから。私たち普通に友だちじゃん。友だちの延長でそういう事する?しないでしょ!男とか女とか言われるのもヤだからっていつも言ってるし、ああいうのって女にすごいリスクあるから男の気分とかで普通にそういう事できるって思ってほしくない」

指示語バトルに入った。彼女は、人間誰しも相容れない瞬間はある、という持論を自らの隙にしか適用できない。

「末練ちゃんは趣味の友だちじゃん。そういうの無い界隈の趣味ってわかってるんでしょ?末練ちゃんがそういう事し始めたらみんなと関係変わっちゃうよ。すごくプライベートな事なんだから。それに末練ちゃん、ずっとこっちいるわけじゃないじゃん。私の体にリスク与えてその後どうするかハッキリ決まってるの?そういう事して出てくるかもしれないこれからの事保証できるの?」

「できません」

「ほら!男はそういうの抑えられないって言うから知ってるけど、一人で解決できるじゃん!女をそうやって使おうとしないでよね!」

「仰る通りです」

「いつも気を遣ってくれてるのはわかるけど、女だからって言うなら止めてよね。私、そういう事するためにご機嫌取られてるんじゃないから」

ビッグイシュー売ってる人がすごく笑ってる。あとで一部買って慰めてもらおう。

「...帰る」

彼女の武器は概ねこの半年全く変わらず、毎度何か地雷を踏むと、この流れでほぼ一言一句同じお叱りを受ける。

別れる気は毛頭ない。曲がりなりにも信用商売だから。彼女の怒りを買い、名指しである事ない事彼女のお幸せフィルターを濾したお気持ちをネットで流布されたら終わるから。そして、別れを切り出される女という構造を彼女は受け容れられないから。僕にできるのは、「それを知って、きみをより深く愛せたよ」という態度を演じるだけ。

「今日はごめんね。でも、叱ってもらえて良かった。ありがとう。今度は楽しい一日にできると思います!」

既読。が、付くと、この文面異様にキモいな〜と思う。が。

午前一時に来る「うん。」に足跡を付けて、何事もなく眠るのだ。


おめでとう チンポガニです

キンタマ殴っていいかな 大漁だね

ボーナス確定 狙って!

チンポ

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ビッグチンボーナス!

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