第12話 初バズり

 姉ちゃんには困ったものだ。こんなひらひらの服を着せて、何が楽しいのか。


 それに僕は男だが?

 確かに腕も脚も、身体も細いし、なんか全体的にナヨナヨしいけど、男なんだが??


 僕はそんな悲しいことを思いながら、部屋に戻った。服はめんどくさいので着替えていない。


 とりあえずパソコンの前に座る。

 そしてスリープモードのパソコンを立ち上げる。


「……そういえば、今の僕ってどんな感じなんだろう」


 僕は、なぜか今日に限ってそんな事が気になってしまった。

 そしておもむろにwebカメラを起動する僕。


 なにか、何か忘れている様な気がするんだけど……。

 重要な……。


「あ、」


 気がついた時にはもう遅い。

 配信画面にはあられもない僕の女装姿。

 フリフリのゴシックドレスに身を纏った、幼さを残しつつもどこか儚い表情の、若干幸の薄そうな美少女が映っていた。


「やばい!!」


 慌ててwebカメラを切る。

 一瞬だが、映ってしまった。血の気が引いていく感覚を覚えながら、恐る恐る配信画面を見る。


『美少女!?!?!?』

『ファッ!?』

『え、だれ?』

『これマジ?』

『声がおんなじだったぞ』

『マ?』

『草』

『おい、ショタは?』

『男の娘?』

『だれ?』


 な、なんなんだこの盛り上がりは!?

 今まで見たこともないようなスピードで流れるコメント達。


 みるみるうちに増えていくコメント数に、嬉しいやら悲しいやら複雑な感情を抱える僕。

 とりあえず、何か喋らないと…!


 マイクをオンにする。


「あー、皆さん。大盛り上がりのところ悪いですが、今のは幻覚です、忘れて下さい」


 これで、ヨシ!


『は?』

『は?』

『は?』

『は?』

『だれ?女といるの?』

『好き』

『は?』


 いや良くねえ、形だけの指差し呼称になっちまう。


「みなさん、落ち着いて、どうどう」


『は?』

『調子乗るな』

『今の誰なの?』

『好きだ』

『チャンネル登録しました』

『調子乗るな』


 だめだ、全く落ち着く気配がない。

 こうなれば、最終手段だ。


「はい、てことでね、今回はここまでです!面白かったらチャンネル登録お願いします!じゃあね〜」


『待て』

『おい』

『待て』

『好きだ』

『待て』

『もっかい見せろ』

『男の娘きたーーーーー!!!!』

『ぴょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』


 そんな大盛り上がりのコメント欄を見ながら、配信をブツ切りした。


「や、やってしまった……」


 僕は半分放心状態で、ベッドに倒れ込んだ。頭がぐるぐると回って、やってしまったという後悔が何度も頭の中で反芻する。


 これは流石に僕の配信人生において、最大の黒歴史となるだろう。もう確実だ、絶対そう、なるなる市場。


 部屋の電気を消して、思い出しては苦しみ、そうしていつのまにか眠っていた。


 ───


 そして朝、さくら先輩からのLINEで目が覚める。


「朝からなんだ?」


 ぼやけた目でスマホを見る。


『天城くん、バズってるよ!!』


 そのメッセージの下には、Twitterのリンク。ぼやけた頭でそれを開く。


 するとそこには、2万いいね1万リツイートが付いた、女装した僕の動画が載っていた。

『リアル男の娘』というツイート文と共に。






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