第7話 一触即発?

 かつかつと、ローファーから音を立てて、さくら先輩が近づいてくる。その足取りはゆっくりで、とても重苦しく、凄まじいプレッシャーを放っていた。


 ゴゴゴゴゴと、某奇妙な冒険で見るような効果音とが聞こえるような、そんな気がするほどの重圧。


 逆光と伸びた前髪でよく見えないが、明らかに目が据わっている。あなた、覚悟して来ている人ですね、やめて下さいお願いします。


「天城くん、久しぶりだよね。最近部活に来ないけど、どうしたのかな?」


 口だけ笑ってて、クソ怖い。しかも、例のスケスケデッサン事件もあってか、僕は若干さくら先輩がトラウマとなっている。


 そんなさくら先輩がかつて無いほどのオーラを出してこちらに向かって来ている。

 僕は普通に怖すぎて、動かないでいた。


「天城…!こんなに震えて……!」


 金山さんの声で、僕は自分が震えているのに気がついた。

 手を顔の前に出してみると、確かに小刻みに揺れていた。だめだこりゃ。


「天城くん、どうして無視するのかな?」


 刻一刻と時間は過ぎていく。そして、さくら先輩も一歩また一歩とこちらに近づいてくる。

 推定接触時間、約45秒後。接触後の損害……測定不能。まさに絶望である。


 そんな時だった。


「ちょっと待った!」


 金山さんが僕の前に立った。

 さくら先輩の進路を阻むように、そして僕を守るかのように、さくら先輩と向き合った。


「………なに?」


 さくら先輩の顔から笑顔が消える。元々貼り付いたような笑顔だったが、それすらも消えた。


「天城が怖がってるから、やめて下さい」


 金山さんは至って冷静だ。冷静に、相手に対し自分の意見を述べている。

 やだ、かっこいい……。


「え?嫌がってるって…何言ってるの。そもそもあなたは誰?」


「私は、金山美久といいます。あなたこそ、どちら様ですか」


 女性の戦い怖い。一触即発すぎないか。


「金山さんね……。私の名前は工藤さくら。そっちの天城くんとは同じ部活の先輩」


「ありがとうございます。それで、工藤さんは天城に何か用事でも?」


「いつまで経っても部活に来ないから、迎えに来てあげたんだよ。もうとっくに部活は始まってるよ?どうして来ないのかな?」


 さくら先輩がこっちを見る。僕は金山さんの後ろに顔を引っ込めた。だめだ、我ながら情けねえ。


「ふふ、天城くんったら可愛いんだから…」


 さくら先輩がボソッと呟く。


「見ての通り、天城は嫌がっています。そもそも部活に行っていないのはもう部活を辞めたからじゃ無いのですか」


 そう、僕は退部したのだ。

 ……あれ、したっけ?


「退部……?私は何も聞いて無いけど…?」


「それは、おそらく天城があなたには秘密にしていたからでしょう。ほら、天城、あんたの口から退部してるって言ってやれ!」


 そう言って金山さんは、僕の方に振り返る。しかしだ。僕には退部届をだした記憶がない。

 ちょっと待て、じゃあ僕ふつうにおサボりマンじゃん。


「……天城?どうした?」


 金山さんの、期待のこもった顔。僕思わず目を逸らしてしまった。

 金山さん、そんな目で僕を見ないで下さい。そんな、早く言ってやれ!ていうような顔で僕を見ないで下さい。おそらく僕はただのおサボりクソやろうなのです。


「……え?マジ?」


 金山さんの顔が、こいつまじか?ていう顔に変わる。


「あ、えーっと〜…、あのー、た、多分?」


 僕は大汗をかきながらそう言った。


「工藤さん、天城をどうぞ!」


 僕は突き出された。


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