第6話 さくら先輩の激情③

「そ、そんな過去が……」


金山さんは引き攣った顔で僕を見る。なんて可哀想な子なの、というような同情の顔。そして頭をヨシヨシしてくれた。僕は幼児か何かなのか?


「あ、天城はそれで、乱暴とかされてないのか?大丈夫か?」


心配そうに僕の体をペタペタと触る金山さん。いや待て、ギャルに心配される男ってなんだよ。


「金山さん、僕は男だよ?そんな乱暴だなんて…」


僕はやれやれと肩をすくめた。しかし、金山さんはそれを聴いて呆れ顔になり、


「いや、天城が男に生まれたのはこの世のバグか何かだと思ってるから」


真顔でそう言い放った。めっちゃ真剣な顔だった。


確かに僕は金山さんより背も小さいし、どちらかというと華奢な方ではあるけど、性別上は男だ。姉に女装させられたり、姉の友達に女装姿でポーズを取らされたりしてたけど、男なんだ、僕は男なんだ!


「僕は男なんだ!」


漢宣言をした僕は、金山さんの哀れな子羊を見るような目で、慈愛に満ちた言葉をかけられてしょんぼりした。


そして昼休みも終わり、金山さんと教室に戻っている時、誰かに見られているような、そんな気がした。


そういえば、最近妙な視線を感じることが多い。この間金山さんと帰った時も、家に入る直前くらいで、誰かに見られているような気がしていた。


ただ、こういうのは大体気のせいである。何も怖く無い、幽霊なんていない。僕は自分にそう言い聞かせ、授業を受けた。とりあえず、今日の夜はトイレ行けないな。やれやれ。


そして放課後。

金山さんが下駄箱で僕を待っていた。僕は本物の陽キャになったのか。


「天城、あんたは1人だと犯罪に巻き込まれそうな気がする」


そう言って金山さんと一緒に帰ることになった。要するに、金山さんは保護者だというわけだ。保護対象は僕。


配信の話をしながら帰る。

夕陽がゆっくりと沈み、街を真っ赤に染めていた。僕は太陽を直視してしまい、あまりの眩しさに目を閉じる。


眩しいものを見た後、しばらく目を開けられなくなる。目を閉じたまま歩いていると、突然手を引かれた。


「天城、止まれ」


そう言って僕の手を引いたのは、金山さんであった。何かを警戒しているような、硬い声色。


ゆっくりと目を開けていく。すると、僕らの目の前に人影を見た。逆光でシルエットのみしか見えないが、女性だろうか。


徐々に目が慣れてきて、僕は背筋に悪寒を覚える。顔がうっすらと見えてくる。目まで隠れそうなほどの前髪。


「天城くん、久しぶり」


さくら先輩だ。







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