第5話 さくら先輩の激情②

僕が通っている学校、「城西高校」では部活に入るのが校則になっている。とはいえ、それは1学年の始めの話であり、ある程度経つと部活もやめて良い事になっている。


その例に漏れず、僕も1学年の始めの頃に部活動に入ることを余儀なくされていた。


入学後のオリエンテーションなどが終わると、部活動の説明会などが催された。サッカー部や野球部、空手部なんかもあったが、運動神経など微塵もない陰キャの僕はどの部活にも惹かれなかった。


どこに入ろうか悩んでいるところに、美術部を見つけた。そういえば小学生の頃は絵を描くのが好きだったなぁと思い、見学に行く事にした。


美術部の部室は、当然美術室である。美術室に入ると、1人の女性がいた。黒髪ロングに落ち着いた雰囲気、そして目が隠れそうなほど伸びた前髪。


この人こそ、僕の天敵「さくら先輩」である。


「あ……」


さくら先輩はおどおどした空気感を纏っており、つまるところ僕と似たような人種であった。


始め、僕はその空気感にとても安心した。同じ穴のムジナ、というやつかどうかは知らないが、似たような人がいるのはありがたい事だった。


自己紹介を行い、入部希望の事などを話した。


「天城くんは、美術とか、好きなの?」


さくら先輩の問いに僕は苦笑いをしながら、


「いえ、実は他に入りたい部活がなくて…」


そう言うと、さくら先輩は「そっか」といい微笑んでいた。


「実は美術部は私1人しかいないの。だから入部希望って嬉しいな」


僕は密かな恋の予感に胸を躍らせた。これが悪魔の囁きとも知らずに。


それから、僕は美術部員として活動を行なった。美術用語や、何をしたら良いのかなどを手取り足取り教えてもらっていた。


思えば、この時からさくら先輩の異常性について気が付いておくべきだった。


さくら先輩に絵のことを教えてもらっている時は距離がやたら近い。さくら先輩は巨乳なので、時折その至高の双丘が触れることがあった。


その度、さくら先輩は照れるでもなく、恥ずかしがるでもなく、不適な笑みを浮かべていた。そして、照れる僕に向かってその顔を赤らめていたのを覚えている。そういえば息も荒かったな……。

 

とはいえ、僕も男である。正直なところ、こんなのはご褒美でしかない。しかし違和感は覚えていた。


そんなこんなで半年ほど経った頃、僕がデッサンのモデルになって欲しいと言われた。


「天城くん、デッサンのモデルになってくれないかな?いまコンクールの絵を描いてるんだけど、男性の身体がよく分からなくて」


「良いですよ」


僕がそう言うと、さくら先輩は僕を準備室に案内した。


「先輩……?」


「今回は男性の身体のラインを描きたいの。だから、これに着替えてもらえるかな?」


そう言われて渡されたのは、少し透けた白衣のようなもの。結構スケスケで、これ一枚だと諸々見えてしまいそうだった。


「あの、これなんか透けてませんか??」


さくら先輩の顔は至って平静であった。いや、平静すぎて不自然なくらいだった。


「これが正式な服装なの。さ、はやく着替えてきて」


にこやかな笑顔のままそう言われ、僕は隅の方で着替えた。やはり体は透けていて、パンツも見えてしまっていたのを覚えている。


「き、着替えてきました…」


さくら先輩はこの瞬間、瞳孔が開き、鼻を膨らませて、とてつもなく息を荒くした。


「はぁ!はぁ!天城くん、最高!!もう我慢出来ない、はやく描かせて!!」


その必死すぎる表情と鬼気迫る雰囲気に僕は怖くなって、その場を逃げ出した……。


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