第4話 さくら先輩の激情

金山さんと一緒に下校したお陰で、僕の明確な配信目標が決まった。それは、チョキさんを目指すと言うことだ。


チョキさんは大手女性配信者で、平均視聴者数1万人を叩き出す凄まじい実力の持ち主である。主にゲーム配信をしており、可愛い声と汚い叫び声のギャップが人気を呼んでいる。


さて、では僕がチョキさんほど人気になるにはどうすれば良いのか。それを金山さんとともに対策を練りつつ実行していく、というのが現在の状況である。


そんな訳で、今日も今日とてLINEにて作戦会議を行なっていた。


美久:『てな感じで、一回やってみよう』


基本的になトライアンドエラーの繰り返しだ。これをやってみよう、あれをやってみよう、ととにかく数をこなす。


目標が決まってからまだ数日しか経っていないが、視聴者数は前よりも増えた。現在、五人。

数は少ないが、確かな一歩だ。


美久:『そういや、明日は私配信行けないから』


珍しく、金山さんが配信に来てくれないらしい。39さんがいると言うだけで実家のような安心感を得ていたのだが、残念だ。


由良:『わかった、なにか用事でもあるの?』

美久:『ちょっと部活の助っ人で』


部活の助っ人……何という青春ワード。一度でもいいから言ってみたい言葉TOP10の内には入るだろう。


由良:『なるほど、金山さんって運動神経いいんね』

美久:『多分良い方だと思う。天城は結構悪いよね笑スポーツテスト、散々だったでしょ笑』


なぜか僕のスポーツテストの結果を知られていて草。ギャル達のグループラインには全員のスポーツテストの結果とか貼り出されるのか?だとしたら普通に怖すぎるだろ。


ちなみに僕のスポーツテストの結果は散々であった。大体が最下位である。しかし長座体前屈だけはかなり成績が良かった。


美久:『そういや、天城は部活とか入ってるの?』


部活……懐かしい響きだ。それは僕に取って希望のような絶望である。


由良:『1年生の頃に入ってたきりかな』

美久:『へ〜、ちなみに何部?』

由良:『美術部だよ』


僕は昔絵を描くのが好きだった。特にやりたいこともなかったし、部活動紹介の時も雰囲気が良さそうだったので入ってみたのだ。


今なら言える。あの時の僕は間違っていた。まさか、あんな先輩がいたなんて。とまあそれは置いといて、だ。


美久:『絵とか描けるんだすご。あ、てかそれを配信のネタにしてみたら?』

由良:『いいね!』


さすが金山さんだと僕は思った。ギャルのくせに中々やる奴だ。褒めて遣わす。不敬罪でぶっ飛ばされそうだ。


そのままの流れで今日はもう寝る事になった。明日は金山さんが配信に来ないとの事で、安心感がない一方で緊張もしない。


そして学校。いつものように、学校の中でも特に日が入らない、陰キャぼっち専用スペース(精神的定員1名)にてお昼ご飯を食べていた。


すると、今度は普通に金山さんが来た。前の時は足音とかにかなり反応していたはずなのに、なんだこの簡単な導入。


「お、天城じゃん」


金山さんはつかつかとこちらに向かってきた。そして当然のように陰キャ専用スペースに入り込んできた(精神的定員オーバー)。


「天城、どんな絵描けるの?ちょっとなんか描いてみてよ」


そう言われ、僕はレシートとペンを渡された。どうやら、このレシートの裏に描けということらしい。


「金山さんの知らないやつかもしれないけど…」

「いいからいいから!見せて!」


それでもいいなら…と僕はペンを走らせる。何を描こうかと思ったが、ここは配信繋がりで某委員長Vtuberを描いた。


「え、すご!委員長じゃん!」


キラキラとした目で僕の描いた絵を見る金山さん。なんだろうこの誇らしさ。これが力……か。


「え、めっちゃ上手いじゃん!こんな上手いのになんで美術部辞めちゃったの!?」


「そ、それは……」


あの思い出が蘇る。さくら先輩の、あれが。


「あ……ごめん。嫌なら良いよ」


金山さん……!本当にこの人はギャルなんだろか、優しすぎないか?


「いや、大丈夫。実は、とある先輩のせいで辞める事になったんだ」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る