第297話 みんなが幸せになりますように。

 ハクの説明で、オレは授業で習ったとおりスキル【祝福】を展開する。

 この【祝福】というスキルは、星の主である神様が、自身の神力を星や住民に分け与える儀式のためのスキルだ。

 こうしたおめでたい日、もしくは住民が何か手柄を立てた時などに行なう特別なもので、使用には直属の名門家の許可が必要となる。

 つまりそれだけ強力で、なおかつさじ加減が重要となるスキルということだ。


 ――き、緊張する。


 フィーネとの結婚が決まってから、この日のために何度も練習を重ねてきた。

 弱すぎれば意味がないし、強力すぎれば均衡が崩れ、住民たちが培ってきた文化を破壊することになりかねない。


「大丈夫よ。【祝福】は、神様の思いの形なの。君ならきっと成功するわ」

「お、おう。ありがとう」


 フィーネに背中を押され、オレは【祝福】に集中すべく目を閉じ、空に向けて手をかざす。

 かざした手の平からは、白く輝く光がまるで柱のように、まっすぐと空高く伸びていくのを感じる。


 そして。

 まるで巨大な花火のように大きく弾け、小さな光の粒となってラテス中に降り注いだ。――はず。


 ――成功、したか?

 この日のために神力を溜め込んできたし、きっと――


 そっと目を開けると。

 住民たちは、その圧倒的な光景の前に言葉を失い、ただただ光を見つめている。

 まるで光の雪が降り注いでいるようだった。


「す、すげえ……」

「よくやったわ。大成功よ」

「素晴らしい光景ですね」


 まだ外は明るいにも関わらず、その繊細な光の粒は陽の光に負けることがなく。

 それでいて強すぎるわけでもない、まるで光自体が何かに守られているような不思議な光景だった。

 空気は澄みわたり、草木や花は艶やかに輝き、果実は瑞々しく甘い香りを放ち、住民たちもより力をみなぎらせていく。


 ラテスは今や、鉱石力が豊富で環境も申し分ない、リエンカ家随一のエネルギーに満ち溢れた星だが。

 この【祝福】で、住民たちの生活はいっそう活気にあふれることだろう。


「す、すごい……これが祝福の力ですか……」

「午前中働いた分の疲労が一気にふっとんだぞ。それどころか、数日は徹夜できそうな勢いだ」

「いやそれは。気持ちは分かりますが、秘書である私の立場も考えてください」


 シオンとバルト王をはじめとした旧トリル人たちも、呆然とした様子で降り注ぐ光を見上げている。


 精霊たちも、【祝福】を喜び体に感じているようだった。

 風精霊の中には、上空を飛び回っている精霊もいる。

 そんな絵に描いたような平和を、ファニルは穏やかな顔で見つめていた。


「これからもラテスという星を、そして平和な暮らしを守っていきたいと思っています。皆さまもどうか、今までどおりラテスの繁栄にご協力ください」

「あなたたちの行動は、常に私たちが見守ってるわ。ラテスの発展を楽しみにしているわね。――それじゃあ神乃悠斗、そろそろ」

「ああ、そうだな。それじゃあ皆さま、また次お会いできる日を楽しみにしています」


 大歓声があがる中、みんなに笑顔で見送られ、オレとフィーネ、ハクはその場から離脱した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る