第295話 ルームの敗北とエリアの笑顔

「……と、ところで、エリアを雇い入れたという噂を耳にしたのですが」

「うん? ああ、そうなんだよ。ハルトが連れてきてね」

「……リエンカ家に置いておくのは危険ではないですか? だって彼は」

「はっはっは。あれはランジの不始末への責任を果たしただけだよ。むしろ彼がスペース家の未来を守ったと言っても過言ではないのだけどね。しかしまあ、エリアの処遇を決めるのはランジだ。だから私がもらうことにしたよ」

「し、しかし――」


 どうやらルームは、エリアが再び居場所を見つけたことが気に食わないらしい。

 跡継ぎとして特別扱いされてきたエリアに対して、何か思うところがあったのかもしれない。しかし。


「ルーム、今ここで、エリアが君に何かしたかい? あまりよその家の使用人を悪く言うものじゃないよ。雇い入れたリエンカ家を侮辱していることになりかねない」

「――っ! そ、そんなつもりは」

「なら、この話はもう終わりだ。いいね?」

「……し、失礼いたしました」


 ルームは何か言いたげな様子だったが、バース相手に強く出られるわけもなく。

 悔しそうにしながらも、それ以降は何も言わなかった。


「それじゃ、君も引き続きこの場を楽しんでくれたまえ。私たちは、ほかの名門家の皆さんにも挨拶をしなければならないからね☆」

「……失礼します」


 ルームはそのまま、目を合わせることもなく去っていった。


「なんなのあいつ! エリアも大概だと思ってたけど、比べものにならないくらい性格悪いわねっ! スペース家なんて滅びればいいのよっ」

「フィーネ! そんなことを言うものじゃないわ。まったく……あなたもう少しリエンカ家の娘である自覚を持ってちょうだい」


 ルームの後ろ姿を睨みつけるフィーネに、フォルテはため息をつく。


「バースさん、助かりました。ありがとうございます」

「……ありがとうございます。その、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「はっはっは。私はただ、思ったことを言っただけだよ。迷惑だなんて思ってないから安心しなさい。何を言われても、君は堂々と胸を張っていればいいんだ。間違ったことはしてないんだからね☆」

「……はいっ」


 ……エリア、良い顔するようになったよな。

 以前から腹黒笑顔は絶やさないヤツだったけど。

 でも今ある笑顔はそれとは違う、心からの笑顔だと伝わってくる。

 立場や環境が変わるとこうも変わるのか。


 ――まあうん。そうだな。

 オレだってここに来て変わったしな。


 こうしてエリアは仕事に戻り、オレとフィーネ、バース、フォルテは残っている挨拶回りを片付けていった。

 ちなみにクリエとリンネは、それぞれ親しい神族たちと会話を楽しんでいる。


「お疲れさまです、悠斗様。大丈夫ですか?」

「あ、ああ。ハクも大丈夫か? 手伝いにまわってもらって悪いな」

「僕は平気です。リエンカ家の皆さまと一緒に挨拶まわりなんて、僕には荷が重すぎます。こっちの方が居心地いいです」

「そうか、それならいいけど」


 あと30分ほどしたら、今度はラテスへ行って、住民たちに【祝福】を授けて、それからフィーネが管理してる星も回らなきゃなんだよな。


 …………というか。

 名門神族の結婚式ほんと忙しすぎでは!?

 え、結婚式ってこんな大変なもんなの??

 早くベッドに転がりてええええええええええええ!!!!!

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