第294話 悪役令嬢ならぬ悪役子息だと……
無事【祝福船】でのお披露目を終えて。
オレたちは再びリエンカ家の敷地内へと戻ってきた。
庭に用意されたご馳走のあたりは、名門神族たちが食事を楽しみながら親交を深める交流の場となっている。
「ハルト様、名門家の皆さまにお礼と挨拶を」
「お、おう」
傍にいたリリアにそう誘導され、フィーネとともに挨拶を――と思ったその時。
「お初にお目にかかります、ハルト・リエンカ様」
「――え」
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。スペース家の次男、ルーム・スペースと申します。先日は父と兄が大変ご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません。次期当主として、当主に代わって深くお詫び申し上げます」
「は、初めまして。ハルト・リエンカです。この度は私とフィーネの結婚式にお越しくださりありがとうございます。え、ええと」
ルームは、物腰柔らかで礼儀正しい少年だが。
しかしどこかゾッとするような、直感が拒絶する何かを持っていた。
まるで、笑顔で寄ってきて足を引っ張る同僚や上司のような。
信用という言葉からほど遠い場所にいる、そんな感覚。
「――あれ? もしかしてあそこにいるのは兄上では? ああ、いや、もう兄上ではないんでしたね。ええと――エリア?」
「…………ルーム」
「こんなところで何をしてるんですか? もしかして、散々迷惑をかけたリエンカ家のお世話になっている、というあの噂は本当だったんでしょうか」
「…………」
「――へえ、すごいですね。恥ずかしくないんですか? いくらうちを追放されて行き場所がないからって、よくもそんな図々しいことができますね。私には到底マネできません」
ルームはエリアに気づき、そちらへと足を運ぶ。
その様子は、まるで次期当主に選ばれた自分を見せつけているかのようだった。
――な、なんだこいつ。
めちゃくちゃ性格悪い!!!
「ハルト様、フィーネ様、あなた方は被害者なんですよ? それに、追放された理由をご存じありませんか? 話によると、勝手に非公開の間取り図を持ち出し情報を漏えいさせたとか。リエンカ家に置いておいて大丈夫でしょうか」
こいつは、エリアがなぜ間取り図を持ち出すに至ったのか知らないのだろうか?
たしかにあの場にはいなかったわけだし、ランジが話してないなら詳細には知らない可能性もある。
でもそれにしても、元兄に対してこの言い方はないんじゃないか?
――でも、あの件に関しては公言せず内密に処理するってことになったしな。
オレが勝手に喋って万が一リエンカ家に迷惑をかけたら困る。
くっそ……こういう時、どう対応したらいいんだ?
そんなことを考えていたその時。
「やあ、ルームじゃないか。本日はハルトとフィーネの結婚式に出席してくれてありがとう。料理は堪能してくれたかな?」
「――バース様。こちらこそ、この度はお招きくださりありがとうございます。お料理おいしくいただきました」
ルームは突然現れたバースにドキッとしたのか、慌てて会話を中断して表情を取り繕う。
スペース家の次期当主といえど、リエンカ家の現当主には敵わない。
「突然跡を継ぐことになって、君も大変だろう。ランジは元気かい?」
「え、ええ。父も今は反省して、おとなしく職務に励んでおります」
「そうか。ランジはとても優秀な男だからね。しっかり罪を償って、また元気な姿を見せてほしいと思っているよ」
「……恐れ入ります」
ルームは頭を下げ、表面上はバースに敬意を表しているが。
しかしその下に見える表情からは、ただひたすらに屈辱を感じている本心がだだ漏れだ。
スペース家の先が思いやられる……。
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