第293話 期待と評価に恥じないように

 リエンカ領を回るお披露目では、建物に触れないくらいの低めの上空を【祝福船】で回遊していく。

 その通り道には、こんなにたくさん住んでたのかと驚くくらい多くの神族がいて。

 皆、上空にいるオレたちを見上げて祝福してくれている。


 通りには屋台のような出店も多数。

 完全にお祭り状態だ。


 ――ここにいる全員、神様なんだよな?


 そう思うと恐れ多くて胃がおかしくなりそうだが、次期当主として、跡継ぎ候補としてフィーネと結婚したのだからそうも言っていられない。

 フィーネの横で、引きつる顔を必死で笑顔に仕立て上げ、下にいる神族たちに手を振るなどの反応を示す。


「ちょっと神乃悠斗、表情が固いわよ。もう少しどうにかならないの?」

「無茶言うなっ。こんな大勢に祭り上げられる状況、慣れてないんだよっ」

「ラテスでだってちゃんと信仰されてたじゃない。それにほら、よく見て。君が神様コンサルした神族たちもたくさん来てるのよ?」

「――――あ」


 緊張で1人1人を認識する余裕がなくて気づかなかったが、よく見ると、あちこちに見たことのある顔があった。


 ――そっか。あの神族たちも全員、リエンカ領民なんだよな。

 見知った顔があると分かれば、少しは緊張もマシになるな。


 神様コンサルで知り合った神族たちは、目が合うと向こうから笑顔で手を振ってくれた。

 オレが緊張していることに気づいたのかもしれない。


「……みんなオレが転生者だって知ってるのに、こうして上に立つことに誰も不快感を見せないんだな」

「当然じゃない。だって君、いまや誰も勝てないくらいの力を持ってるんだもの。それに君のおかげで神様活動の実績が急上昇した神族もたくさんいるって聞いたわ」

「そうだぞハルト。君はもう、ただの転生者じゃない。リエンカ家の跡継ぎとして私が認めた、立派な名門神族だ」

「ええ。君がこの短期間であげた功績は、ちょっとやそっとであげられるような功績じゃないわ。モモリンなんて、今や領内だけじゃなく神界中の大人気商品ですもの。それに公表はしてないけれど、この間の上位神鉱石だって」

「バースさん、それからフォルテさんも……」


 正直、そんな大きな功績をあげた実感は全然ない。

 それに今まで――いや、むしろ今だって、どこかふわふわとした感覚が抜けない。

 能力だって、オレの努力で得たというよりは、フィーネの手違いによって起こった偶然の産物だ。


 でも、それでも。

 オレはたしかな形で神界に貢献し、リエンカ領に大きな利益をもたらし、ラテスを平和な星へと導いた――んだよな。

 神力の高さは元々だったとしても、神様能力と信仰力だけは、ある程度はオレ自身が勝ち取ったもののはず。


「たとえ転生者ゆえの能力の高さだったとしても、数値の高さを抜きにしても、ハルト殿の実力は本物ですよ。転生者なんてほかにもいくらでもいますからね。でも、こうして名門神族にまで成り上がった転生者は、私はハルト殿しか知りません」

「そ、そうか。ありがとう……」


 エリアはオレが手違いで転生させられた事実は知らないし、フィーネが何やかんやして生まれた偶然の産物であることも知らない。

 だからこれを鵜呑みにするのは違うような気がするけど。


 ――まあ今は、素直に喜んでおくか。

 オレに一番足りてないのは、実力でも神力でもなく自信らしいしな!


 そしてこれからも、みんなの期待と評価に恥じない神族を目指そう。

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