第292話 未来に向かって
神殿での式が終わると、今度は数時間かけてリエンカ領内を巡る、一般神族へのお披露目が行なわれる。
このとき使われるのが【祝福船】だ。
「うお、でかっ! なんだこれ……」
初めて目の当たりにする【祝福船】は、ちょっとした豪華客船級のサイズで。
これの主役がオレとフィーネだという現実を受け止めきれないほどだった。
「か、帰りたい……」
「まだ乗ってもないじゃないっ。本当に君は、どうしてその実力があってそんなに小心者なのかしら。領民への挨拶はとても大事なことなの。こういう接点を大事にできないと、当主失格だと見なされるわよ」
「……フィーネがまともなこと言ってるだと?」
「どういう意味!? 私はいつだってまともなことしか言わないわよっ」
ぷくっと口を膨らませて睨みつけてくるフィーネを見て。
そんないつもどおりの様子にホッとした。
ドレス姿のフィーネは眩しすぎて、じっとしてると本当にオレが相手でいいんだろうかと不安になってしまう。
「それではどうぞ、お乗りください」
多くの名門神族が見守る中、オレとフィーネは【祝福船】へと乗り込む。
船には既に、バースとフォルテ、クリエ、リンネ、それから世話係の天使が数名、操縦担当の神族が数名乗船していた。そして。
「……あの、どうして私まで乗せられているのでしょうか?」
そこにはなぜかエリアもいた。
エリアは表からは見えない位置に隠れ、困惑した様子でおろおろしている。
「はっはっは。いいじゃないか。私はね、何だかんだで君のことを気に入ってるんだよ。家のためなら何でもするけど、超えてはならない一線は決して超えない。素晴らしい心意気だ」
「…………それ、褒めてます?」
「もちろんだとも。君には言うまでもないと思うけど、名門家当主の仕事は、綺麗事だけでは務まらないからね☆ ……それに君は、ハルトと並んで娘の恩人だ」
「…………」
各家が所有する【祝福船】に乗せられるということは、身内として認められたも同然ということになるらしい。
もちろんエリアはリエンカ家の一員ではなく、「使用人」という立場ではあるが。
しかしたとえ使用人としてであっても、乗船を許されるのはごくごく一部のみ。
本来なら、なりたてのエリアが乗船するなど到底許されることではない。
元々スペース家の跡継ぎだったエリアは、当然そのことを重々承知している。
「……まったく、リエンカ家の皆さまがいつか誰かに騙されないか、心配です」
「私はこう見えて、相手を見る目はあるんだ。でなければ当主なんて務まらないよ☆ 事実ほら、君はこうしてリエンカ家のことを大事に思ってくれている」
「……それはまあ、リエンカ家の皆さまは、行き場のない私を受け入れてくれた恩人ですからね」
「でも、もしもランジが今の君と同じ立場になったとして、彼がそう思うとは思わないだろう? つまり、そういうことだよ☆」
「……あはは。まあ、ランジ様はそうでしょうね」
困ったように笑うエリアは、どこか清々しい表情をしていた。
エリアがここに来てまだ1年ほどだが、今ではすっかりリエンカ家の右腕ポジションを確立している。
エリアの持つ教養の深さや実力は本物だった。
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