第291話 共に歩む覚悟と誓い

「ちょっとあなたたち何をしているの? 早く準備なさい」

「母様聞いてよ! 神乃悠斗が」

「うおいこら待てストップ!!!!!」

「? なによ、君にも羞恥心ってものがあったの?」

「当たり前だろっ! むしろおまえの数倍はあるわっ!」


 親に言うとか何考えてんだこいつ!

 恥ずかしさと気まずさで死んでしまう!!!


「まったく。仲がいいのはいいことだけれど、今は忙しいのだからあとにしてちょうだい」


 フォルテは呆れた様子でため息をつき、ティアと少し話をして出ていった。

 細かい諸々の最終確認をしていたのだろう。


「ハルト様、フィーネ様、そろそろ」

「おう」


 挙式自体はオレの知ってるそれとあまり変わらないもので、司会進行役はランクSの専門担当者が担ってくれた。

 会場となっている広間に降りると、周囲には数えきれないほどの神族たちが集まり、オレたちを祝福してくれている。

 その中にはクリエやリンネ、ルアン先生、懇意にしている名門家の令嬢・プラネ、ティマ、リオス、さらにはスペース家の次男の姿もあった。


 ちなみに現当主であるランジにも形式上の招待状を送ったが、どうやら来ていない様子だ。そりゃそうか。

 3大名門家であるリエンカ家の結婚式に、スペース家から1人も行かせないのはさすがに――と思った結果、次男に行けと命じたのだろう。

 ちなみに長男であるエリアがいなくなったことで、次期当主の座はこの次男のものとなったらしい。

 エリアは自分が出ていくと変な目立ち方をしてしまうからと表には出ず、式の間は裏方の仕事に徹していた。


 みなの注目と祝福が降り注ぐ中、誓いの言葉を読み上げた担当神族は、オレとフィーネの前に1枚の紙を差し出す。


「え?」


 ――なんだこれ。

 オレの知ってる結婚式にはこんな紙出てこないぞ?

 オレが知らないだけか?


 紙は羊皮紙のような分厚いしっかりとした紙で、そこに何やら読めない手書きの文字が書かれていた。

 以前リエンカ家の書庫でも見た気がするし、恐らく古代文字か何かだろう。


「この紙は、あなたの元いた世界で言うなら――そう、婚姻届けのようなものです。誓いを受け入れ共に歩む覚悟があるならば、この紙に手を」


 ここで婚姻届け!?

 ま、まじか……。

 というかこれ普通の紙じゃなさそうだし、手をかざすってことは何らかの術が発動する仕様になってそうだよな。

 機密情報の塊である名門家との婚姻を反故にしないための何かか?

 怖え……。


 まあでも、オレはフィーネもリエンカ家も裏切る気なんてさらさらないし。

 これからずっと、こいつの笑顔を守っていくつもりだし。

 どんな術が発動しようが関係ない、か。


 オレとフィーネがその紙に手をかざすと、紙はまるで花びらのようにほぐれ、美しく周囲を舞って消えた。

 その様子を見届けた参加者たちは、一斉に歓声や拍手を贈る。

 神力でキラキラ輝く光の粒や虹色に艶めくシャボンを舞わせている者もいる。

 どうやら、神界ではこれが誓いの儀式らしい。


 まるで世界中から注目されているかのような状況に、思わずたじろいでしまいそうだ。

 人見知りのくせにこれだけ注目されてもまったく動じないフィーネは、やはり注目されることに慣れているのだろう。

 何でもないことのように笑顔で手をふり、時折親しい神族たちとハイタッチのようなこともしている。すごい。


 ――まあその名門家の令嬢らしからぬ振る舞いに、フォルテさんは頭を抱えてるけど。

 でも今は、そんなフィーネの天真爛漫さが心底心強い。

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