第290話 いつも通りなみんなが好き

 翌朝。

 今日は予定通り、オレとフィーネの結婚式が行われる。

 結婚式には神界中の名門神族およびランクSの天界神族が集まり、さらには神界に1人しかいないランクSSの聖神様からの手紙も読み上げられる。らしい。

 会場は、リエンカ家神殿の1階の大広間、通称【神の間】と、そこから繋がっている広大な庭園。

 2階にある自室の窓から下を眺めると、庭園では天使たちが慌ただしく豪華なご馳走を並べつつ、最終チェックと飾りつけを行なっていた。


「おめでとうございます、ハルト様」

「ありがとう。リリア、それからユイナも。準備大変だっただろ。お疲れさま」

「何をおっしゃるんですか! こんなおめでたい日に立ち会えるなんて、そしてほんの僅かでも携われるなんて、むしろ幸せすぎて体の震えが止まりませんっ♡」

「いや、本当に大丈夫かそれ……」


 リリアは恍惚とした表情を浮かべ、浮ついた様子で目をキラキラとさせている。

 どうやら、相変わらずのリエンカ家箱推し状態らしい。


「――おっといけない、大変失礼いたしました。本日は式のあと、そのままリエンカ領の指定区域を【祝福船】で一周していただきます。準備はすべて整えてありますのでご安心ください。その後神殿に戻られましたら改めて皆さまにご挨拶を、それから所有されている星への【祝福】もお忘れなきよう」

「お、おう」


 ちなみに【祝福船】というのは、その名の通りおめでたい日のお披露目なんかに使われる、空飛ぶ船のことだ。

 名門家以上の親族は各家に専用の【祝福船】を持っているらしい。

 金持ちのプライベートジェットのようなもんなのか? 知らんけど。

 リエンカ家に入ってそこそこ経っているが、未だこの家の全貌がまったくもって分からないからすごい。


「――神乃悠斗、入ってもいいかしら」

「お、おう」


 部屋に入ってきたフィーネは、純白の美しいドレスを身に纏っていた。

 普段からとんでもない美少女だが、今日はその100倍くらい美しい。


「……な、なによ、すごい見るわね」

「いや、これで見ないとか無理だろ。綺麗だよフィーネ。似合ってる」

「なっ、えっ――と、当然じゃないっ!? ……で、でもその、ありがとう」


 いつも通りの強気を貫こうとしつつも、恥ずかしさに抗えず頬を染めるフィーネ。

 視線を逸らし、あたふたしている様子がまたたまらない。


 ――なんだこれ。めちゃくちゃ可愛いんだが!?


「だ、抱きしめたい……」

「――っ!?」

「あ――」


 しまったうっかり声に出してしまった。


「い、いやごめん! 違うんだ! いや違わないけどっ! これは思わず本心が声に出てしまっただけというか……」

「~~~~っ! バカじゃないの!? まったくこれだから元人間はっ! せめてタイミングと場所を考えなさいよっ!」

「だからうっかりだって言ってんだろ。うっかりにタイミングも何もねえよ」


 フィーネは真っ赤になり、ぷるぷるしながら半泣き状態になっている。

 そんなオレたちを見て。

 リリアはハァハァしながら声にならない雄叫びをあげ、フィーネについていたティアは微笑ましげに頬を緩め、日々を見慣れているユイナとハクは、顔を見合わせ苦笑しながらため息をつく。


 ――――はあ。

 なんというか、本当に平和だな……。


 これから式が始まるというのに、さっきまで緊張してガチガチだったはずなのに、気がつけば笑っている自分がいた。


 まったく、だからこいつら好きなんだ。

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