第287話 捨てる神あれば拾う神あり
そして数十分後。
フォルテはバースを連れて戻ってきた。
「ば、バース様――! も、申し訳ありませんっ。本当にすみませんでしたっ! いいいいい今すぐここから去りますのでどうかお許しくださいっ」
エリアはバースを見るなり混乱し、オレの後ろに隠れたかと思ったら土下座をするという奇行に走り出した。
前から思ってはいたが、こいつ実はかなり小心者なのでは?
バースはそんなエリアを見て、一瞬驚きを見せたが。
「はっはっは。相変わらず君は面白いなあ。まあとにかく、そんなところに潰れてないで立ちなさい。べつにこちらは君に危害を加えるつもりはないよ」
うずくまり半泣き状態で怯えるエリアに、そう手を差し伸べる。
バースのそれは本心なようで、怒りや憎しみといった感情は感じられない。
むしろどちらかというと、エリアの今の状況を憐れんでいるようだった。
「し、しかし――」
混乱のままバースに引き起こされ、エリアはどう対応するのが正解なのかと慌てふためいている。
「とりあえず落ち着いて話をしようじゃないか。ほら、そこに座りなさい。フォルテとハルトも。……ああそうだ、ちょうどおいしいお菓子があるんだった。君たちもどうだい?」
バースはオレたちをソファへと座らせ、テーブルにお菓子を並べる。
するとちょうどそこへ、天使が紅茶を運んできた。
「君の話は聞いているよ。ランジに追い出されたんだってね。まあ彼もやりすぎだとは思うけど、でも非公開の間取り図を持ち出したのはまずかったね。名門家の立ち入り禁止領域には、必ず立ち入り禁止である理由があるんだ」
「――え。いや、あの」
「そしてその判断をできるのは、どんな事情があろうと当主のみ。名門家が抱える領域はとても複雑な決まりの中で動いていて、それが乱されれば世界が大混乱に陥るからね」
天使が去ったあと、バースは「公表されたとおりの内容」について言及する。
そんなバースの発言に、エリアは困惑した様子でオレの方を見る。
自ら切り出して謝罪するべきなのか否かを、決めあぐねているようだった。
しかし。
「……そしてここからは風の噂なんだが。君がその間取り図を持ち出したのは、どうやらうちのためだったらしいね?」
「――え。いえその、ため、と言いますか……私はただ責任を」
「君とは付き合いも長いし、君が考えなしにそんなことをする子じゃないのは知っている。ランジに見つかればこうなる可能性も、考えていたんじゃないかな」
「…………それはまあ」
――そう、なのか。
エリアはそんな覚悟でフィーネを……。
「うちとしては、そんな君が排除されるのを見て見ぬふりはできない。だからその、君がもし嫌でなければ、うちで働かないかい?」
「――え!?」
「君は追放されたとはいえ、元々は跡継ぎとして育てられた優秀な名門神族だ。そんな君がうちに仕えてくれるのなら、そんな有難いことはない。フォルテも異論はないね?」
「ええ、もちろん」
バースにそう問われ、フォルテは優しく微笑む。
この2人は、本当にどこまでできた神様なんだ……。
まあ監禁された当人のフィーネがどう出るかは分からないけど!
「で、ですが私には、そのようなことをしていただく資格なんて」
「ああ、もちろん部屋は特別に用意するし、食事つきだよ☆ それなりに給料も出そう。君にとっても悪い話じゃないだろう? それとも、うちに仕えるのはプライドが許さないかな?」
「い、いえっ、そんなことはっ! でも本当によろしいのですか? 私みたいなのを雇ったと知られれば、リエンカ家の名に傷が」
「はっはっは。見くびってもらっちゃ困るな。うちはそんなことで傷がつくほどやわな家系じゃないよ。だから君は、自分がどうしたいかだけを考えなさい」
バースのその言葉に、エリアは堪えきれず涙を流す。
そして。
「…………はは。本当に、リエンカ家の皆さまには敵いませんね。私は――もし許されるのなら働かせていただきたいです」
「よし、それなら決まりだ。これからよろしく頼むよ、エリア」
「よろしくね」
「――っ。はいっ。誠心誠意お仕えいたします」
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