第283話 取り戻した日常とこれから

 こうしてフィーネ監禁騒動は、リエンカ家とスペース家の間で解決へと向かい。

 フィーネとの婚約も正式なものとなって。

 オレたちは初めて恋人としてラテスの神殿へ戻った。


 ――今横にいるこいつは、オレの彼女、なんだよな?


 しかも婚約までしちゃってる、これから一緒に生きるパートナーでもある。

 前世では縁もゆかりもなかった状況に、なんとなく気恥ずかしさを感じてそわそわしてしまう。


「――ねえ神乃悠斗」

「う、うん?」

「私たち、正式に婚約者になったのよね?」

「お、おう。そうだな」

「――なら、ちょっとだけ抱きついてもいいかしら」

「うん!? え、あ、はい! どうぞ!?」


 えっ、いきなり早速そんな!?

 フィーネはそんなにオレのことが好きだったのか?

 というか意外とこいつ積極的な――


 ――そう思ったが。

 抱きついてきたフィーネは小さく震えていた。


「わ、私、またここに帰ってこられたのね……。立ち入り禁止領域なんかに監禁されて、子どもを作ると約束するまで出さないって言われて、ずっと監視されてて、もう君と結ばれる未来は諦めるしかないのかもって……」

「フィーネ……。助けに行くの遅くなってごめんな。無事で本当によかった」


 フィーネは緊張の糸が切れたのか、オレに抱きついたまま大泣きしてしまった。


 ……そっか。不安じゃないわけないよな。

 監視の男への横柄な態度も、自身の恐怖心を払拭したいゆえのものだったのかもしれない。たぶん。


「あれっ、お2人とも帰ってたんですね。おかえりなさ――」

「あ、ハク。ただいま」

「あわわ、すみません変なタイミングでっ」

「ああ、いや大丈夫だよ。おまえもずっと心配してくれてたもんな」

「それはもちろんですっ。だってフィーネ様は、僕の元所有者様ですし。それに今は大切な家族です。まったく、ランジ様もエリア様も許せませんっ」

「あはは。まあでもランジ様はともかく、エリア様がいなかったら救出できなかったんだし。こうして無事戻ってこられたんだし、もう水に流そうぜ」

「むう。悠斗様は人が良すぎます……」


 たしかに、騒動の火種となったのはエリアのオレへの対応だったわけだけど。

 でもそれは、あくまで「交渉」の範囲内のことだ。

 エリアはスペース家の跡継ぎとして、ランジから与えられた使命を果たそうと必死だったのだろう。

 まだ独立していない子どもにとって親の存在は大きいだろうし、親がランジとあればなおのこと逆らうなんてできなかったはずだ。


「ランジ様とフォルテさんでどういう話になったのか知らないけど、ランジもこれ以上どうこうしようと考えるほど愚かじゃないだろ」

「それはまあ」

「次こんなことしたら許さないわよっ! 今度は徹底的に潰しにいくわ!」

「ああ、そうだな。そのときはオレも容赦しないよ」


 エリアは優秀で頭もいいし、名門家の子息として申し分ない力を持っている。

 それにそもそも、スペース家自体が3大名門家の1つだ。

 フィーネに限定しなければ、ほかの令嬢が放ってはおかないだろう。

 何といっても凄まじい美形だし。

 だから、エリアにはどうにか立ち直って前を向いてほしい。


 ――そう思っていたのだが。

 事態は思わぬ方向へと進んでいた。

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