第279話 なんか思ってたのと違う!!!!!

 エリアはオレが撮影した【記憶SHOT】を頼りに、立ち入り禁止領域内の地下へ続く隠し通路を降りていく。

 自分の家でありながら初めて見るその場所に、戸惑いと緊張を隠しきれずにいる様子だ。

 薄暗い通路をしばらく進んでいくと、再び明るい廊下に出た。

 位置からいって地下で間違いないはずなのだが、窓の外は緑に溢れ、窓から光が差し込んでいる。訳が分からない。


 ――こんな光景目の当たりにして、誰一人驚かないってすごいな。

 神界では普通のことなのか?


 そんなことを考えながら進んでいくと、何やら奥の方から声が聞こえてきた。


「――フィーネの声だ」

「――ええ」


 声は、どうやら2つ先の扉の奥から聞こえているようだった。

 そしてフィーネの声とはべつに、大人の男の声も聞こえている。

 オレたちは慎重に近づき、中の様子を探ろうと扉の奥の声に集中する。


「こんなところに閉じ込めておいて、食事もまともに持ってこれないってどういうことよっ。今日は肉の気分だって言ってるじゃないっ!」


 ――うん? に、肉?


「で、ですが、お食事はスペース家の皆さまと同じものをご用意しておりまして」

「それはそっちの事情でしょ? 私は魚の気分じゃないのよ。餓死させるつもり?」

「も、申し訳ありません。確認してまいります……」


 そこで声が途切れ、中から男が出てくる。


「――っうわっ!? え、エリア様!? なぜここに――ここは立ち入り禁止領域ですよ。というか一緒におられる皆さまはいったい?」


 男は疲れ切った様子でオレたちのほうを見る。


「え、ええと。中で騒いでるのはフィーネで間違いない、ですよね?」

「!? えっ、あっ――」


 男性は何かを察知したように、扉の前に立ちふさがる。

 恐らく、フィーネの監視と世話を命じられているのだろう。


「ちょっと騒がしいわよ。いったい何して――って神乃悠斗!? それに母様と姉様も! ……ということは私、助かったの?」

「お、おう……」


 なんだろう?

 たしかにオレはフィーネを助けに来たし、ランジもルームも捕まってるし、間違ってはない。間違ってはないけど――

 なんか思ってたのと違う!!!!!


「え、あの、おまえ監禁されてたんだよな?」

「そうよ。見たら分かるでしょ。まったく、同じ名門家として信じられないわ」

「……なんかもっと怖がるとか怯えるとかないのか?」

「怖かったわよ! 君を丸め込もうとしたのがあまりに腹立たしかったから、今後同じことがないようにって乗り込んだんだけど。エリア様は見当たらないし、気がついたらここに閉じ込められてて――」


 やっぱり自ら乗り込んだのか!

 人見知りのくせにこういうときだけ異常な行動力発揮するの本当なんなんだ……。

 そんなことを考えていたそのとき。


「…………フィーネ」


 フォルテはツカツカとフィーネの方へ歩いていき、そして。


 ぱんっ!


 フィーネの頬を平手打ちする。

 周囲に乾いた音が響き、その場にいた全員が凍りついた。

 フィーネはしばらく呆然としていたが、叩かれたと気づいて頬をおさえ、驚いた様子でフォルテを見る。


「な、何するのよ痛いじゃないっ」

「あなたの身勝手な行動でどれだけ周囲に迷惑かけたと思ってるの?」

「だって神乃悠斗があんなこと言われたのよ!? うちだって侮辱されたも同然じゃないっ! 黙ってろって言うの!?」

「あなたが出ていったところでどうにもならないでしょう? もう少し身の程を弁えなさいっ」

「なっ――なによ母様のばかっ! 悪いのはランジ様とエリア様じゃないっ。私、監禁されてたのよ? 労わりの言葉はないの!?」


 子どものように泣きじゃくるフィーネに、フォルテは頭を抱えている。

 その様子を見て、エリアはどう声をかけるべきかとおろおろしていたが。


「あ、あの……フィーネ嬢」


 意を決したように、ついに口を開いた。

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