第272話 さすが生と死を司る一族!
「――そういえば、ハルト殿はどのような役割を? ああいえ、もちろん言えないことなのであれば言わなくてもいいんですが」
「……すみません今は。いずれ話します」
「そうですか。分かりました」
実はオレは、フォルテさんによってスペース家に仕える天使に憑依させられ、潜入調査を行なっていた。
ターゲットとなった天使は、エリアの側仕えとしていつも同行している天使。
エリアがリエンカ家に来た際別室で待機させていた天使に、れいの上位神鉱石(仮)の粉末入りドリンクを飲ませてオレの神力を潜ませたらしい。
こうすることで魂の馴染みがよくなり、双方の体にあまり負担をかけずに憑依させることができるという。
憑依と言っても基本的には視覚を共有する程度のものだが、潜在意識に働きかけて行動をコントロールすることもできるらしい。
2日前の夜にこの説明をされたときは、正直戸惑いもあったが。
しかしフィーネ救出のためならやむを得ない。
エリアはスペース家でも、フォルテに言われたことを忠実にこなそうと隙間時間を見つけては情報収集に勤しんでいた。
また、時折立ち入り禁止領域に繋がる扉まで行っては思い悩んでいたが、その先に行く勇気がないらしく、ため息をついては引き返す、というのを繰り返している。
――にしても、相手は仮にも名門神族なのに気づく気配すらないな。
憑依されている本人すら無自覚のようで、違和感の片鱗すら見せなかったし。
さすが生と死を司る一族、天使の魂を操るなんて造作もないということか……。
「地図が手に入ったことで、注視すべき場所が絞りやすくなったわね。恐らく、この黒塗り部分のどこかに監禁されているのでしょう。ただ問題は、この中のことは知りようがない、ということね……」
「……あまりお役に立てず申し訳ありません」
「いいえ。間取り図のことがスペース様に知られれば、あなたもただでは済まないでしょう。うちの娘のためにここまでしてくれてありがとう」
「そんな――! 元はうちが引き起こしたことです」
こうして見ていて思う。
もしもエリアがリエンカ家の子息として生まれていたら。
そしたら、転生者をそそのかして事を動かそうとするような卑怯な子には、きっとならなかった。
――なんか、だんだんエリアが気の毒に思えてくるな。
「エリアは、スペース様やスペース夫人が立ち入り禁止領域に滞在する時間をできる範囲で調査してちょうだい。その際に何か気づいたことがあれば、それも教えてもらえると有難いわ」
◇ ◇ ◇
作戦会議を終えて帰宅すると、ハクが心配そうに出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ。悠斗様、その、あまり無理は……。最近ぼーっとしていることが増えましたし、お疲れなのでは?」
「あ、いや、それは――」
3人だけの秘密と約束した以上、たとえハクであっても話すわけにはいかない。
「……僕ではお役に立てそうにありませんか?」
「――え」
ハクは、悲しそうな顔でうつむき、ぼそっとそう漏らす。
フィーネがいなくなってもう5日が経つし、さすがにただ事ではない、というのは伝わっているのだろう。
「……ごめんハク。明日、一緒にリエンカ家に行こうか。そこですべて話すよ。おまえにも協力してほしい」
「! はいっ!」
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