第270話 告白、そして結託

 エリアによると。

 スペース家の当主・ランジは、表向きは朗らかで頼りがいのある、多くの神族を惹きつける理想の神族で。必要とあらばいつでも惜しげなく力を使い、周囲の者を喜ばせることを当然だと思っている。

 そのために見えないところで努力を重ね、常に自分がどうするべきか、どうあるべきかを考えるストイックさも併せ持っており、そこだけ見ると当主の鏡のような神族らしい。


「こうした点は私も心から尊敬していますし、次期当主として見習わなければと思って生きてきました。ですが――」


 その一方で、目的を達成するためには手段を選ばない、という側面もある。そのうえ頑固で融通が利かず、一度決めたことは成し遂げなければ気が済まない。そうしたランジの本性を知る一部の神族の間では、「敵に回すと厄介な名門家」としても有名だと教えてくれた。


「……私は幼い頃から、リエンカ家の姉妹の誰かを必ずモノにしろと言われてきました。しかしクリエ嬢はあまりに掴みどころのない性格で、リンネ嬢は姉妹のことしか眼中にない。だから可能性があるとするならフィーネ嬢だと思ったのです。彼女は年齢的にも一番私と近いですし」

「それはまあ、分かってはいたわ。ただね、今だから言ってしまうけれど、リンネには婚約者がいるの。だからうちとしては、フィーネを渡すわけにはいかないのよ」

「――え」


「詳細はまだ言えないけれど、お相手がリンネのことをとても評価していて、猛アタックしたらしいの。リンネは最初こそ断っていたのだけど、あの子も何だかんだで認められたのが嬉しかったみたいで――つい先日、うちと相手方の両親含めて話し合って、正式に婚約が決まったわ」

「……そう、でしたか」

「相手の家はうちやスペース家ほど大きな家ではないから、いろいろと不安もあったみたいで、公表はギリギリまで控えましょうという話になったのよ」


 リンネさん、最近見かけないと思ってたけど婚約が確定したのか。

 相手がリンネさんを慕ってくれてるなら、気持ちに余裕も生まれるだろうしこれは姉妹関係としてはかなりいい方向に行くのでは!?

 まあ、エリア様には気の毒だけど。


「では、私は父上からの命令を果たせないことが確定したのですね……」

「そこは諦めてもらうしかないわね。私としても、こんなことが起こった以上、娘をスペース家に嫁がせるわけにはいかないわ」

「本当に、父上はなぜこのような愚行に出たのでしょうか。こんなことが知られれば、スペース家全体の問題になってしまうのに。こんなの、名門神族として絶対にあってはならないことです」


 エリアは悔しそうに唇をかむ。


 ――こいつは性格いいとは言えないけど。

 でも根は真面目だし、今までずっと家のために尽力してきたはずだ。

 なのにこんな、こんなやり方、こいつだって裏切られた気持ちでいっぱいだろう。


「オレもフィーネを助けなきゃならないし、できる限りのことはします。ですからエリア様も、どうか力を貸してください」

「ハルト殿……。もちろんです。スペース家の長男として、こんな不祥事見過ごすわけにはいきませんから」

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