第269話 エリアの涙

「フィーネ嬢は名門神族、しかもリエンカ家のご令嬢です。さすがに直接何か危害を加えることはしないと思います。もし本当に監禁しているとしても、衣食住には困らないよう手配するはずです」

「そ、そうか。それならまだ――」


 いや、とはいっても、いったいどうすれば!?

 とりあえずフォルテさんに相談はすべきだろうけど――


「この件、フォルテさんに話しても?」

「もちろん構いませんが、証拠がないので……。あまり天使を巻き込むと、父上によって天使に神罰が下されてしまう可能性もあって。父上は少しその――いろいろと手段を選ばないと言いますか……」

「それはだめだ。天使を巻き込むのはやめよう」

「ありがとうございます。ハルト殿ならそう言ってくださると信じてました」


 もしかしたら、またエリアの罠かもしれない。その可能性も0ではない。

 でも、もし本当に捕らえられていたら――。

 そしたらきっと、フィーネは今とても心細い思いをしているはずだ。


「――とりあえず、フォルテさんと話をしましょう」


 オレはエリアを連れて、フォルテさんの部屋へと向かった。

 この時間は忙しいかもしれないが、今はそんなことを言っている場合じゃない。


 ◇ ◇ ◇


「――なんですって?」

「ある天使が、一昨日の夜うちでフィーネを見たと言っていまして」


 エリアは先ほどオレに話したことを、そのままフォルテに説明した。


「…………どうしたらいいのかしら。スペース様は、フィーネが来たことすら認めていないのよね? しかも証拠もない。スペース家の能力を考えるとかなり厄介だわ」

「申し訳ありません。私もまさかこんなことになるなんて。そもそもフィーネ嬢は、いったい何をしにうちへ? 何かお心当たりはありませんか?」

「……それは、あなたが悠斗に変な提案をしたからじゃないかしら? いったいどういうつもりか知らないけれど、あんなのリエンカ家を敵に回すも同然の行為よ」

「――――っ」


 自分がした提案をフォルテに知られていると気付き、エリアはうつむき青ざめる。


「……ま、まあ、こうしてフィーネの身を案じてくれたんですし、まずはフィーネの件をどうするか考えた方が」

「――そうね。スペース家とは長い付き合いだし、今ここでとやかく言ったところで何も変わらないことは分かっているわ。あなたがどれだけの覚悟で悠斗に伝えてくれたのかも、ね」


 フォルテはそう、エリアの方を見る。

 その目からは、心なしか憐れみのような感情が感じ取れた。


 ――エリア家の当主様ってどんな方なんだろ?

 パーティー中は特に変な空気は感じなかったし、明るく気さくなタイプに思えた。

 でも、今の2人の様子を見ていると――


「…………も、申し訳、ありません。私、は、どうしたらいいのでしょうか? 今の私では、父上の力には到底敵いません。これは、ハルト殿がこちらに来る前にフィーネ嬢を振り向かせられなかった私の責任です。フィーネ嬢と話したことで、父上は私では無理だと見限ったのでしょう。だからこんな、こんなことに――」


 フォルテの心遣いに気が緩んでしまったのか、エリアはぼろぼろと涙を流し、ぽつぽつと心の内を打ち明け始めた。

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