第266話 長所と短所は紙一重

「……すみません」

「いいえ。悠斗くんを1人にさせたフィーネの責任だわ。私も行ければよかったのだけど……ちょうど別な案件とかぶっていたのよ。ごめんなさいね」

「フィーネは大丈夫でしょうか」

「まったく大人げなくて恥ずかしいわ。……でも、フィーネの気持ちも分かってあげて。あの子、何をしても上2人に勝てなくて、恐らくずっとコンプレックスを抱えていたのだと思うわ。そうした中で、頼みの綱であるあなたも一緒に馬鹿にされて、悔しくてたまらなかったのでしょうね」


 ――そうか。

 というか本当、なんで馬鹿にされてるって気づかなかったんだオレ……。

 少しでもいいヤツだなんて思った自分が恥ずかしい。

 昔だったら絶対疑ってたはずなのに。


 ……これが平和ボケってやつなのかな。


 こっちに来てから、理不尽な上司や足を引っ張る同僚もいなくて。

 周囲にいるのは、従順なハクと何だかんだで親身に考えてくれるリエンカ一族、それからオレのことを恩人だと慕ってくれる人族と精霊たちしかいなかった。

 そもそもオレと住民では立場が違いすぎるし、正直多少何かが起こったところで対策なんていくらでも立てられる。


 そんな状態だったから。

 いつの間にか、相手を疑うという感覚が薄れていたらしい。

 自分は特別な存在である、ということでどこか調子に乗っていたのかもしれない。


 というか、そもそも元人間であるオレには、「神様が誰かを騙そうとするはずがない」という根本的な思い込みもある。


 ――はあ。めんどくさいな。

 こういう腹の探り合いって苦手なんだよな、オレ。

 でも、こんなんじゃリエンカ家の当主なんて夢のまた夢だな……。


「相手のことを考えて受け入れようとする姿勢は、悪いことではないわ。それはあなたのいいところよ。救済召喚されたのも、あなたのそういう性格あってのこと」

「――え。で、でも」

「あなたの悪いところは、自己犠牲精神が強すぎることよ。相手のことばかり考えて自分を犠牲にしていると、バランスが崩れてしまうわ」


 ――そういえば、ルアン先生にも散々言われたんだったな。そうか。


 オレが今考えるべきなのは、自分自身のこと、それからフィーネやこのリエンカ家のことだ。

 スペース家の事情を考慮しすぎれば、そのしわ寄せはリエンカ家にいく。

 オレの行動は、オレ1人の問題ではないのだ。


「……すみません。エリア様には、きちんとお断りします」

「そうしてちょうだい。……きつい言い方をしてごめんなさいね。私も少しカッとなってしまったわ」

「いえ。危うくリエンカ家に泥を塗るところでした。以後気をつけます」

「何かあったら、いつでも相談してちょうだい」

「はい」


 ――あとでフィーネにもちゃんと謝らないとな。

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