第258話 子どもだけ作っても、じゃねえ!

 エリアは一瞬ぽかんとし。

 それから困ったように、おかしそうに吹き出した。


「――ははっ。勢い。どおりで情報が出てこないわけですね。では、思っていることを1つお聞きしても?」

「え、ええまあ」


 答えられるかは質問次第だけど。


「ハルト殿は、既にリエンカ家の一員でいらっしゃいますよね? なぜフィーネ嬢なのですか? 普通に考えれば、別の名門家のご令嬢を娶るのがやるべきことでは?」


 えええ。

 そんなの理由は1つしかないだろ!

 何なんだ? オレを辱める趣味でもあんのかこいつ!?


「…………好き、だからです」

「好き、というのは恋愛感情ということですか? その感情は、そんなに優先度の高いものなのですか? 家のことより?」

「そうですね」

「な、なるほど……?」


 エリアは頭を抱え、何やら思い悩んでいる。


 ――いったい何考えてんだ?

 解決できそうな事情じゃなかったから困ってるってところだろうか。

 というか、何を言われても政略結婚なんか――


「ああ、すみません。身近に人族出身の名門入りをした神族がいないもので、カルチャーショックが大きくて。悪く思わないでくださいね」

「なんかすみません……」

「……実は、私はフィーネ嬢を娶りたいと考えてるんですよ」


 うん。そうだろうな!


「なので、ハルト殿の条件を聞いて交渉しようと思ったのです。でもそうですか、恋愛感情……」


 話していると分かるが、エリアは恐らく悪人ではない。悪気もない。

 純粋に、名門家の跡取りとして家のことを考えて動いているのだろう。

 それは分かる。分かるけど――


「あ、じゃあ、子どもだけ作ってもいいですか?」

「はあ!?」

「スペース家としては、生と死を司るリエンカ家とのより強固な繋がりがほしいのです。もちろん子どもを作るとは言っても、人族のように交わる必要はありません。我々は――」


 何なんだ? オレがおかしいのか?


 エリアの発した言葉が衝撃的すぎて、後半頭に入ってこない。

 神族は種族的に恋愛感情が希薄、というのを甘く考えていた。


「そ、そもそもそれを決めるのはフィーネでは? というか普通に嫌です……」

「リエンカ家にとっても損はない話だと思うのですが。うちと組めば最強ですよ?」

「いや、そういうことじゃなくて……」

「そうですか……。分かりました。今日はこの辺りで失礼します」


 エリアはそう言って帰っていった。


 ――ってこれ大丈夫だよな?

 オレべつに間違ったことは言ってない、よな?

 それとも、名門神族的にはオレが1人で我儘言ってるような感じ?

 リエンカ家とスペース家のトラブルに発展したりしないよな???


 神族のこともだいぶ分かってきたと思ってたけど。

 まだまだ理解しがたいことも多々ありそうだ。


 ――とりあえず、フォルテさんかバースさんに相談しよう。

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