第240話 鶴の一声すげえ

「でもハルト様も、よりによってフィーネに恋するなんて」

「――え?」

「だってリエンカ家といえば名門中の名門ですもの。本来なら、私たちがこうしてお茶に誘うのも恐れ多い存在よ。フィーネが気さくに接してほしいと言ってくれるからご一緒できてるけれど」


 そういえば、リエンカ家は三大名門神族と言われている、というのをルアン先生から聞いた気がする。

 ちなみにあと2つは、神界を司る一族、それから空間を司る一族だったか……。


「そんな、プラネたちがこうして誘ってくれるの、本当に嬉しいのよ。私はあまりこういう場は得意じゃないし、心強く思ってるわ。それにハルトも今頑張ってくれてるところで――」

「でも現実問題、転生者であるハルト様がリエンカ家の当主を務めるのは難しいんじゃなくて? ……ああ、べつに悪いと言ってるわけではありませんのよ。でも」


 ティマはチラチラとプラネやリオスに同意を求める。


「そうねえ。フィーネが当主になることがあれば、だけど。でもそうでないにしても、ハルト様自身に守るべき家がないのだから、婚約となれば自然とリエンカ家に入る形になるものね」

「もう少し下位の名門神族ならまだ……」


 ――なるほど?

 なぜかは知らないが、こいつらオレがフィーネと婚約するのに反対なのか?


 フィーネは何かを察しているのかいないのか、うつむいたまま黙り込んでいたが。


「ハルト様も、残念だけどフィーネは諦めた方がいいんじゃなくt」

「――ティマ」

「――へ?」

「婚約云々はともかく、ハルトがリエンカ家に入ることは、すでに母様と父様が決めたことなの。正式な契約も済んでるわ。ティマはリエンカ家の決定が間違ってたと考えてるのかしら」

「――え。い、いえそんなつもりじゃ」


フィーネの言葉に、ティマは驚いた様子で顔を引きつらせ否定する。

フィーネの性格上、普段あまり家の名前を出して言い返すことはないのだろう。

その有無を言わさぬ圧には、正直オレも驚いた。


「そう。ならもうこの話はいいわね。これはハルトとうちの問題だから」


 フィーネは続けて、笑顔でそう牽制する。


「――そ、そうね。私たちが首を突っ込むことじゃないわね」

「もう、ティマったら。ごめんなさいねフィーネ。主催者として謝罪するわ」

「いいのよ。心配してくれてありがとう。――そうそう、そういえばシュワシュワジャムに新作が出たから持ってきたの。使って感想を聞かせてくれると嬉しいわ」


 フィーネが話題を強制的に変えたことで、これ以降はこうした面倒な話題を振られることはなく。

 お茶やお菓子の話、新しいお店や流行りの話、オシャレの話などに花を咲かせることとなった。


 ――フィーネすげえ。

 いや、すごいのはリエンカ家なのか?

 いずれにせよ、オレの反論ではこうはいかなかっただろうな。

 あとでお礼を言っておこう。


 こうして、オレとフィーネは3時間ほどプラネの茶会に参加し、無事何事もなく(?)帰宅したのだった。

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