第223話 リエンカ家の跡継ぎ事情

 ハクに湿布を貼ってもらって、シルヴァ特製のお茶を飲んでしっかり休んだおかげか、翌朝には体の痛みもだいぶラクになっていた。


「迷惑かけたな」

「いえ、少しは回復したようでよかったですっ」


 ハクは再び昨日のと同じお茶を入れ、朝食とともに出してくれた。

 今日もまた、授業とあの無謀な訓練が待っている。


「――ふああ。おはよう。あれ、君起きて大丈夫なの?」

「まあどうにか」

「無理してまた倒れないでよ?」

「多分な」


 週3日なんて余裕だと思ってたけど、大きな間違いだった……。


 早く慣れないと、神様活動に割く時間がなくなってしまう。

 でも、リエンカ家に相応しい実力を身につけなければ、いつまでたっても「お試し」から卒業できない。

 それにフォルテやバースにも認めてもらえなければ、これから先のことを考えると厳しいだろう。


「――それじゃあ行ってくるよ」


 朝食を食べ終え、ラテスのことを2人に任せて、オレは憂鬱な気持ちを振り切ってリエンカ家へと向かう。


 ◇ ◇ ◇


「今日もよろしくお願いします」

「おはようございます。今日は――」


 午前中は、リエンカ家の一員として必要な教養を叩き込まれる。

 今は、社交の場でのマナーやルール、ほかの名門神族との付き合い方などを仕込まれているところだ。

 が、オレは別なことを考えていた。


「――あの、ルアン先生」

「? 何でしょう?」

「その……フィーネがこの家を継ぐ可能性はどのくらいあるんでしょうか?」

「……何ですって? そんなこと聞いてどうするんです? まさか当主の座を狙ってるんですか?」

 

オレがフィーネに告白したのはもちろん、惚れていることすら知らない(はずの)ルアン先生は、訝しむような目でオレを見る。

 当主狙いでリエンカ家に近づいた、と思ったのかもしれない。


「いや、なりたいわけではないんですが。というかオレ、当主とかそういうの向いてないと思いますし」

「私もそう思います」


 相変わらず辛辣!


「そもそも私は、ただの家庭教師です。リエンカ家の跡継ぎ問題なんて、そんなの知るわけないでしょう」

「そう、なんですか……」

「当然です。私はいたって普通の一般神族の出身ですし、住み込みではありますが雇っていただいてここにいるだけですから」


 なんか裏ボスみたいな存在だと思ってました!

 ――とは言えないな。うん。

 課題が10倍くらいに増やされそうだ。


「フィーネ様は、ハルト様のことを信じてらっしゃいます。裏切るような行動は許しませんよ」

「もちろんです! そんなことしませんよ」

「……でも、クリエ様は跡継ぎではなく天界神族として生きる道を選ばれましたので、リンネ様とフィーネ様のどちらか、ということにはなるでしょうね」


 ――そうか。

 天界神族(ランクS)としての仕事を選んだってことは、そういうことなのか。

 だからフィーネはあんなことを。


「――って、天界神族になると、具体的にどういう扱いになるんです?」

「天界神族は、家ではなく個として選ばれる、名門神族の上に位置する存在です。独自の領域を代々受け継ぐ名門神族とは違い、神界と天界を統べる聖神様に直接仕え、世界のシステム構築、改善に貢献します」


 な、なるほど!?


「つまり天界神族になると、基本的には家を出て、大神殿があるエリア内に屋敷を設けてそこで暮らすことになります。クリエ様が普段リエンカ家にいらっしゃらないのはそのためです」

「それでリンネさんかフィーネなんですね……」


 ……いや、うん。

 でも正直、どっちも向いてないと思うんだが!?

 リエンカ家大丈夫か???

 いやでも、どっちかと言えばまだ――

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