第221話 こんなん自信なくすわああああああ!

「――っいや、ちょ、待って! 無理いいいいいい!!!」

「なんだい情けない。まだ始めたばかりだろう。しかも君はまだまだ若い。こんなことでは笑い者になっちゃうぞ☆」


 軽いノリの口調とは裏腹に、バースの動きは尋常ではなく。

 まるで先を読まれているかのごとく一瞬の隙も見当たらない。

 元の体が運動神経皆無だったのはともかく、今のオレはそこそこ俊敏に動けているはずだ。

 というか、前計測した時点で飛行速度は音速を超えていた。

 それなのに!!!


「――あ、あのっ、予知能力か何か使ってます?」


 というかバースさん、これだけ動いて息すら乱れてないってどういうことだ?

 もはやバケモノだろこんなん……。


「はっはっは。面白いことを言うね。私はただ、君の動きを見て動いてるだけだよ」

「お、オレの動きを見て? それにしては早すぎませんかね……」

「視線や筋肉、それから流れる気の動き。相手が動く前に読み取れるものは案外多いんだよ。あとはまあ、経験による勘かな☆」


 …………。

 訓練を始めた瞬間から何となく思ってたけど。

 バースさん、教えるの向いてないのでは?

 まったくの初心者に対して説明が雑すぎる気がする!!!


 ――いやまあフィーネの親だしな!?

 というか流れる気の動きって何だよ!!!


 動けば動くほど、挑めば挑むほど、自分がバースの操り人形か何かに思えてくる。

 正直、初日だというのに既に心が折れそうだ。


「バースさんは、どうやってそんなに強くなったんですか?」

「うん? 私は――そうだなあ。いつの間にか?」


 こ、こいつ――!

 これだから天才は困る!!!


「だんだん動きが鈍くなってきたね。少し休憩にしようか」

「は、はい……」


 訓練場の横に備え付けてある椅子に座って、しばし2人で体を休める。


 ――明日は100%筋肉痛だな。

 いや、神族も筋肉痛になるのかは知らないけど。


「……あの、オレってやっぱり弱いですかね?」

「そうだね。戦闘スキルで言えば、未就学児と同じくらいかな☆」

「え……そんなに……?」

「何というか、周囲も自分もまったく見えてないね。ただ向かってきてるだけ。それでは一生勝てないよ」

「ぐ――」


 計測器で計れないほどの神力があることで、リエンカ家には敵わないにしても自分はまあまあ強い方だと思っていた。

 が、神力の高さと戦闘スキルは必ずしも一致しないらしい。


「……というか、なんか便利なスキルとかないんですか?」

「もちろんあるとも。でもスキルは、知識と残力さえあれば神族はみんな使えるからね。長期戦になれば君が有利かもしれないけど、でも今のままじゃ、長期戦になる前に倒されて終わりだ」


 バースはそう言って、それから少しだけ真面目な顔でオレの方を向いた。


「いいかいハルト、戦闘に必要なのは、鍛えられた肉体と経験、知識、それから神力の密度だ。いくら量が多くても、使いこなせなければ役に立たない。むしろ多すぎる神力は、体が弱いとマイナス要因にすらなる。だから君は、ほかの神族以上にしっかり体を作らなければ」


 ――神力がマイナス要因に。

 そんなことがあるのか。

 神力を消費すると同時に、体力も消耗しているということなんだろうか?


「……すみません」

「なに、謝ることじゃないさ。ハルトはまだ、戦闘に関しては赤ちゃんみたいなものだからね。これから強くなっていけばいいことだよ」

「……はい」


 オレは、背中をバシバシ叩きながら軽快に笑うバースに少し救われながらも。

 越えなければならないハードルの高さにただただ圧倒されたのだった。

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