第219話 たとえかっこ悪くても。

「…………」


 ――ぐ。

 無言はやめてくれえええええ!!!


「あ、あの、フィーネさん?」

「…………」


 オレはどうしたらいいのか分からず、空気に耐え切れずに視線を彷徨わせる。

 そうして暫く沈黙が続いたのち、何気なくフィーネへ視線を戻すと――


 フィーネは泣いていた。


 ――え?

 え、泣いてるってどういうことだ?

 何だこれ?

 オレが泣かしたのか?

 そんなに告白が嫌だった?


 今までろくに女性と異性として関わってこなかったためか、フィーネの涙の理由がまったくもって分からない。


「――して」

「え?」

「どうしてそんな惑わすようなこと言うの!? 私だって君のこと好きよ! でもだからこそ、君をうちの面倒ごとに巻き込みたくないのっ! 私は、ラテスで楽しく自由に神様活動してる君が好きなのにっ……なのにっ……」


 え? うん?

 え、それはつまり――


「え、お、おまえもオレのこと好き、ってこと、なのか?」

「そうよ悪い!? 君が来てから毎日が楽しいし、こんなに誰かに興味を持ったのも初めてよっ」


 ええええええええええええええ。

 というかなんで逆ギレみたいになってるんだ……。


「でも私はリエンカ家の娘なのっ……今は調査と社会勉強のためにラテスに住むことを許されてるけど、普通の家の子みたいに自由にはいかないのよっ」

「……オレは、おまえが少しでも楽しく暮らせるように傍にいたいし、おまえに傍にいてほしい。一緒に頑張っていきたいと思ってるよ」

「うちの力には、リエンカ領、それからうちが司る領域のすべてがかかってるのよ? 気持ちだけでどうにかなる問題じゃないのよっ」


 ――どうしたら信頼してもらえるんだ。


 実際、オレはリエンカ家のすべてを見ているわけではないし、そもそも神族になって数年しか経っていない。

 こんなヤツに何を言われても安心できないのは当然だろう。

 それだけの責任が、リエンカ家にはある。

 それは分かってるけど!


「――だったら、お試し期間ってのはどうだ? おまえが納得できるまで、いつまでだって試されてやるよ」

「……お、お試し? ってどういう」

「言っとくけどな、オレだって告白なんて初めてなんだぞ! ずっとそういうのと無縁な人生送ってきて、この歳になって初めて、しかもおまえみたいに可愛くて美人な女の子に思いを伝えるのがどんだけ覚悟のいることか分かるか!? つまりそれだけ本気なんだよ! 好きならお試しの対象にくらいしてくれたっていいだろっ」

「――ちょ、なっ――はあああ!?」


 我ながら何を言ってるのか分からない。

 し、どうしようもなくかっこ悪いことを言っている自覚もある。

 でも、恋愛経験ゼロと言っても過言ではないオレには、もう本音をぶつけるしか方法が思いつかなかった。

 こうなったら、どうにでもなーれの精神だ。


「…………まったく」


 だ、だめか……?


「まったく本当に、君はどうしようもないバカだわ。仕方ないから、お試しの対象にくらいはしてあげるわよ。私にふさわしい神族になれるよう、せいぜい励みなさい」


 フィーネは困ったように、涙を拭きながらそう笑う。


 ――――ああ、本当に。

 こんなに愛しいと思える相手ができるなんて。

 できることなら今すぐ抱きしめたい。

 そしてお試しの対象になったくらいでこんなに喜んでる自分は本当にバカだと思う。

 でも。それでも。


「絶対おまえにふさわしい、リエンカ家の当主にだってなれるくらいの男になるから。だから改めてよろしくな、フィーネ」

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