第218話 フィーネと付き合うということ

「…………」

「…………」


 い、言ってしまった。

 しかもフィーネは無言で固まってしまっている。

 でも今さら茶化せる空気でもない。

 どうしたものか……。


 そんなことを考えていたその時。


「……ちょっとこっちに」

「えっ!? おいっ――」


 フィーネは突然オレの手首を掴み、スキル【転移】を発動させた。


 次の瞬間。

 気がつくと、オレ(とフィーネ)は、何やらやたらと豪華な建物の前にいた。


「え、こ、ここは……?」

「ホテルよ」

「はあっ!? え、ちょ、おまっ――え!?」

「ここは会員制のホテルで、会員になってる名門神族しか使えない休憩用の個室があるのよ。そこで話しましょう」


 ――あ、なるほどそういう。

 び、びっくりした……。


 フィーネは手続きを済ませ、ついてくるよう目配せする。

 たどり着いた部屋は、壁一面がガラス張りの豪華な部屋だった。

 階数的に地上からも距離があり、窓から見える景色も絶景だ。

 部屋には美しい木のテーブルとふかふかのソファ、それからドリンクや軽食なんかも用意されていた。


「座って」

「あ、はい……」


 フィーネは置いてあったドリンクを2人分用意し、自分もソファに座る。


「……ええと。き、聞き間違いじゃなければ、私、君に告白されたのかしら」

「え――あ、はい。しました」


 なんだこの尋問のような空気!

 怖い!!!


「――はあ。あのねえ! 君バカじゃないの!? 私はこれでも名門神族で、それなりに顔も知られてるのよ? しかもあそこリエンカ領だし! なのにあんな、あんな一般神族がたくさんいる場で突然言い出すなんてっ!」

「……ご、ごめん」


 ――しまった。

 そうか、名門神族って領民に顔が知られてんのか……。


 これはだめ、かな。怒ってるし。

 まあそもそも、ランクが並んだとはいえ、オレは所詮成り上がりだしな……。

 ここまでこれたのだって、何だかんだでハクとフィーネの力あってこそだし。


 …………でも。

 でもオレだってここまで頑張ってきたわけだし。

 フィーネのこと好きだし、そんな簡単に諦めたくない。

 はっきり振られるまでは――


「それにうちみたいな家の恋愛は、当人同士の気持ちだけでできるものじゃないの! 君は、万が一うちを継ぐことになったらその役割を果たせるの?」

「――――え?」

「私は三女だしこんなだから、可能性は限りなく低いと思うけど。でも今のところ姉様たちは全然興味がなさそうだし、嫁ぐ可能性だってあるわけだし。私と君がそういうことになればもしかしたら――」


 家を継ぐ? リエンカ家を?

 ――――オレが?


「……ほら、そんなこと考えもしなかったんでしょ?」


 フィーネは呆れた様子でため息をつく。


 というかこいつ、そんなこと考えながら生きてるのか……。

 いやまあそうだよな。

 普段は好き勝手してても、リエンカ領には多くの神族が暮らしているわけで。

 こいつがそうした領民を本気で無視して動けるわけがない。


「……はっきり言うけど、君には荷が重いんじゃないかしら。こういうのは、そうなるつもりで育ってないと難しいと思うわ」


 そう言ったフィーネは。

 気のせいかもしれないが、どこか悲しそうに見えた。


「……もし仮に、仮にそこをクリアできるなら、オレにリエンカ家を継ぐ覚悟と力があるなら、おまえはオレと付き合ってくれるのか?」

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