第210話 洞窟で採れた鉱石が調味料だと

「深さは――そんなないようだな。よしっ」


 靴と靴下を脱ぎ、池の中をジャバジャバと進んでいく。

 キラッと光った辺りを見てみると、岩の隙間から水晶のような透明で六角柱状の鉱石が生えていた。

 よく見ると、その鉱石は隙間のあちこちから生えている。


「へえ。神鉱石ではないけど、一応いくつかサンプルとして取っておくか」


 採取しやすそうないくつかの鉱石に目星をつけ、周囲にあった石を使って5つほど採取した。

 まるで水がそのまま結晶化したようなその鉱石は美しく、握るとじんわりと冷たさが染み出してくる。


 オレは採取した鉱石を背負ってきた籠に入れ、もう一度水を飲んで持ってきた果実をいくつか食し、さらに奥へと歩みを進めることにした。

 が、しばらくいくと、歩いてはとても超えられそうにない断崖絶壁へとぶち当たる。

 まあ飛べば問題はないが――しかし。


「――洞窟? ダンジョン、ではない、よな?」


 オレは再びスキル【探知】で、それがダンジョンではないことを確認する。

 ダンジョンというのは神様が意図的に設置するもので、一般的に何らかの「主」や「管理者」が深部に置かれている、と以前ルアン先生が言っていた。

 もしここでファニルのようなドラゴンに出くわしたら、1人で乗り越えられる自信はないが――


「生体反応はなさそうだな。ただの洞窟か」


 スキル【神の力:光】で灯りを作り、中の様子を確認する。

 洞窟内には不思議な形の、色とりどりの鉱石が壁のあちこちから生えていた。


「これは……岩塩か? こっちの紫のは見たことないな。こっちの赤いのは何だ?」


 洞窟は思ったほど深くなく、中は一本道で5分ほどの距離しかなく。

 あっという間に奥へとたどり着いた。

 洞窟内にあったのは、カラフルな鉱石の数々のみだ。


「よく分からんが……どれも神鉱石でないことは確かだな。とりあえずできる限り全種類持ち帰るか」


 オレは先ほど鉱石を採取した際に使った石を使い、色とりどりの鉱石を壁面から取り出していった。

 籠の中は鉱石でいっぱいだ。


「……だいぶ採ったな。そろそろ帰るか。籠、壊れませんように」


 籠の状態を確認して慎重に背負い、洞窟を出て来た道を引き返していく。

 出口に近づくにつれて木々もまばらになり、明るさが増していった――

 が、森を出たところで空を見上げると夕方になっていた。


「……ふう。さすがに疲れたな」


 昨日同様、湖で体と服を洗ってスキルで乾かし、改めて採取した鉱石をテーブルの上に並べてみた。

 家の照明の下でも輝きが失われることはなく、簡素なログハウス内で圧倒的な存在感を放っている。

 オレはそれを1つずつ見て、触って、匂いを嗅いで、それから舐めて――


「――ってしょっぱ! これはやっぱり岩塩だな。こっちは――甘っ! 砂糖? え、砂糖ってこんな形で採取できるもんだっけ?」


 その砂糖のような鉱石を石で削り、改めて口に含む。

 粉末となった鉱石は、口の中にじわっと強烈な甘みを広げ、溶けて消えた。


 うん。砂糖だな!!!

 よく分からんが、砂糖であることは確かだ。

 ――ということは?


 オレは洞窟で採取した鉱石を片っ端から削り、口の中に入れてみた。


「辛っ! 何だこれ唐辛子か? こっちは――え、これ何だ? コンソメ? 嘘だろ? あれって肉やら野菜やらの出汁が合わさってできるもんだよな?」


 そのほかも、洞窟内で採れた鉱石はすべて調味料だった。


 …………うん。

 まったくこれだから異世界は!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る