第203話 ランクA昇格試験 初日

 今日は、ついにランクA昇格試験が始まる日。予定どおり大神殿に向かうと、クリエが出迎えてくれた。


「ハルト君、おはよう。今日から大変だと思うけど頑張ってね~」

「おはようございます」

「試験が始まったら私は立ち会えないんだけど、それまでは私が案内するわね~。こっちよ。ついてきて」


 クリエに連れられて向かった先は、以前数値測定を行なった部屋だった。


「それじゃあ、応援してるわね~。リール、お願いするわ」

「ありがとう。神乃悠斗くん、こちらへどうぞ」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 クリエはリールと呼ばれた女性にオレを引き渡すと、そのまま部屋を出て行った。


「初めまして。私はランクSの天界神族、リール・シフォンよ」

「あ、どうも初めまして。神乃悠斗と申します」


 リールは、フィーネの髪より白に近い薄い金髪をした、これまた美しい女性だ。髪は腰よりも長く真っ直ぐで、まるでシャンプーのCMのような、絹のような艶やかさをたたえている。


 うっかりすると、思わず見とれてしまいそうだ。


「まずは数値を測定するわ。この神球に両手をついて、私がいいって言うまで力を流すイメージを維持してね」

「はい」


 前回同様、手を置くと、石のようなひんやりとした感触がじわっと伝わってくる。

 リールはクリエと同じように、オレが手を置いている場所と反対側に両手を置き、何やらよく聞き取れない言語で詠唱を始めた。


「――っ! あ、待って、ちょっといったんストップ!」

「? あ、はい……」

「……事前に聞いてはいたけど、本当にすごい力だわ。続行すると神球の方が壊れちゃうかもしれないから、ここはクリアってことにしておくわね」

「す、すみません……」

「大丈夫よ。力が多いのは悪いことじゃないわ。それじゃあ筆記試験に移りましょうか。場所を移動するわね。ついてきて」


 リールは出力したデータをファイルに挟み込み、それを持って部屋を出た。

 次に案内された部屋は、大きなテーブルが1つと椅子が10脚ほど置かれた会議室のような部屋だった。

 大神殿らしく白を基調にデザインされたその部屋は、シンプルながら洗練された美しさが凝縮されたような空間で。

 一瞬、試験中であることを忘れそうになってしまった。


「筆記試験は、2日に分けて行ないます。明日もこの部屋だから、時間になったらこの部屋に来てね」

「分かりました」

「それじゃあ――すぐっていうのも何だし、1時間後に始めましょう。それまではテキストを見直してもいいし、リラックスしててもいいわ。1時間後にまた来るわね」


 リールはそう言って、オレを残して部屋を出ていった。10席もあるからほかにも受験者がいるのかと思ったが、どうやらオレ1人らしい。


 ――試験は1時間後、か。

 今さら焦ってもしょうがないだろうし。

 気になるところを見直しつつ緊張をほぐすことに集中しよう……。

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