第184話 おや、人族の様子が……

「領主様! お待ちしておりました」

「ガーネットさん。こんにちは」

「……今日はハク様は一緒ではないのですか?」

「ハクは用事が入ってしまいまして。すみません」

「いいいいいいえそんな! どうぞこちらへ」


 ガーネットが暮らすのは、周囲の家より少し大きいレンガ造りの家。

 以前も何度か招かれたことがあるが。

 いつ見ても掃除が行き届いており、決して装飾過多なわけではないのにどこか女性らしさがある。

 飾らないガーネットの人柄を感じさせる家だ。


「最近は村の様子はいかがですか?」

「おかげさまでこちらでの生活にもすっかり慣れて、みんな幸せそうに暮らしています。救ってくださった領主様、それから精霊様には感謝してもしきれません」

「それはよかったです」


 ラテス村の住民たちは、救済召喚した当初とは見違えるように回復していた。

 生気をなくし、やせ細った体で怯えた目をしていた元奴隷とは思えない。


「……ただその、最近住民に不可解なことが起こっていまして」

「不可解なこと?」

「その……普通、人というのは手から水が出たり火が出たりしませんよね?」

「――はい?」


 突然何を言い出すのかこの村長は。


「実は一週間ほど前から、私たちラテスの民に不思議な力が備わりまして。もちろん、悪者がいて薬を飲まされ幻覚を見ている――という可能性も考えました。でも、どう考えても幻覚ではないように思えるんです」

「え、ええと。それはつまり、ここの住民たちが手から水や火を出せるようになった、ということでしょうか?」

「…………そ、そういうことです」


 ええええええええええ。

 いや、最近いっそうラテスの鉱石力が高まってるなとは思ってたけど。

 でもそれで人族に特殊能力が備わるなんて、そんなことあり得るのか?


「それでその、もしかしたら精霊様のご意思で起こったことなのでは、と。この星に精霊様がいらっしゃるのは、実際にこの目で見ていますから」

「え、ええと……」

「もちろん、私たちのようなただの人間にそんな価値があるとは思えませんし、こんな力をいただいてもどうしたらいいのか分からないのですが。しかしほかに考えられることもなく……」


 ガーネットは、分不相応な考えだと思っているようで、赤面し戸惑いながらぼそぼそとそう付け加えた。


 ――ふむ。

 これはどうしたらいいものか。

 正直に、精霊たちが上位精霊になったことでラテスの力が高まり、その結果起こった異変だと話してしまうのもアリかもしれない。


 でも現状、ガーネットは精霊に与えられた力だと思っている。

 そう思いたい――ようにも見える。


 この星に連れて来られて、奴隷から解放されて平和になったはいいが。

 これから何を見て、どこを目指して生きていけばいいのか分からず、心のどこかに不安を抱えているのかもしれない。


 虐げられていた人間は、自己肯定感が低くなりがちだと聞いたことがある。

 そういう状況に陥っていてもおかしくはない。


 だったらいっそ、この勘違いはそのままにしておいた方がいいんじゃないか?

 精霊の影響ってのはあながち間違ってないし。


 ああ、こんな時にハクかフィーネがいたら。


 ――いや、この星の管理者はオレなんだし。

 自分で考えて答えを出さないと。


 ちょうどレイヤーの再結合を考えていたところだし。

 一度精霊たちとも相談してみるか。

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