第171話 救済の裏側で行なわれる選別

 次の目的地は、スノウアースから南下した先にある穏やかな草原地帯。

 ちょうど要塞都市エクレアから真っ直ぐ西に進んだ位置。


「この辺なら人族も住みやすい気候だろうし、この辺りにしよう」

「はいっ」


 次に召喚するのは――

 

「あれ、新しく追加されてる?」


 ●人族 250名【緊急】

 8769星に住む人族(寄せ集め)。

 魔物の増加により星が病に侵され、行き場を失っている人族。

 闇と瘴気の暴発は星の力と関係するもので修復不可能。

 星の廃棄が確定している。

 80000G


「寄せ集めってなんだ?」

「1つの国や種族ではなく、星全体から善良な住民を選りすぐっての救済ということです」

「な、なるほど。そういうのもあるのか」

「数値で選別しているので、こういうことも結構あります」

「数値で選別!?」


 ――あ、案外シビアなんだな……。

 まあ本来死ぬはずだった命の救済措置だもんな。そりゃそうか。


「僕も詳しいことは知りませんが、これも生と死を司るリエンカ家の仕事の1つだと聞いたことがあります。カタログの作成はランクSのお仕事ですけど」

「まじか……」


 ……こういう仕事は、生まれながらの神族の方が適してるのかもな。


 その数値がどういう基準で決まるのかは知らないけど。

 でもたとえば、数値が1足りなかった時。

 オレはその命を諦められるのだろうか?


 どこかで線引きするしかないとはいえ、そんなのあまりに――。


 ――はあ。

 リエンカ家の仕事も大変なんだな。


「本来救済する予定だった人族とは違いますが、いいんですか?」

「うーん。そうだな……」


 寄せ集めというのは、居住地域がバラバラだったというだけではない。

 言葉は――なんかこの星にくると通じるようになるっぽいけど。

 でも文化も違うだろうし、敵対する種族が入り混じる可能性だってある。


 そうした人族を250名召喚して、それを1つの国として機能させることなんてできるのだろうか?


 ――いや、べつに1つの国にする必要はないのか?


 今までは、旧レト王国の住民、要塞都市エクレアというある種の「塊」をまるごと召喚したからそうしていただけで。

 べつにバラバラならバラバラでもいいのかもしれない。

 土地にはまだ余裕があるし、今までと同じことを繰り返すより、こうした不確定要素の多い召喚も取り入れた方が――


「――うん。よし。やってみよう」


 ああ、でも食料にだけは困らないようにしておこう。

 空腹になれば無駄な争いも生まれやすくなるだろうし。


「当分は、僕も積極的に様子を見に行きますね。僕の本来の役目は、救済召喚された転移者のお世話ですから。……まあ本来は神様用ですけど」

「1人で大丈夫か? オレは実力分かってるけど、でもおまえ可愛いからなあ」

「か、かわ――!? 大丈夫ですっ! 心配しなくても人族に負けたりしませんよ。僕、これでも神獣ですから」


 ――まあたしかにそれもそうか。

 救済召喚者の世話は、オレなんかよりよっぽど手慣れてるよな。

 任せてみるか。

 あとは様子を見つつ、必要があれば都度考えることにしよう。


 こうしてオレは、人族250名を召喚した。

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