第168話 この何気ない日常を守りたい

「とりあえず、森精霊のバターチキンカレーとシュワシュワジャムはうちでも扱いたいよな」

「そうね。キャンディスもいけるんじゃないかしら」


 カレーが出来あがるまでの間、オレとフィーネとハクで神界に卸す商品の選定を進めることにした。


「あれ、面白いけどちょっと高くないか?」

「そんなことないわよ。あれだけのクオリティならむしろ安いくらいだわ。味も香りも一級品よ。材料を厳選して丁寧に作ってるのが伝わってきたわ」


 まじか。

 まあたしかに香りも味もよかったけど。

 でもほとんど氷砂糖なのに、モモリン、オレン、洋ナシ、ラズベリー、ラム酒の5種セットで5500マニって。分からん。


「シルヴァさんのやすらぎハーブティーはどうだ? オレは飲みやすくていいと思ったけど」

「もちろんいるわ。シルヴァ商店のハーブティーは、クリエ姉様が広めた影響で大神殿の常備品になってるの」

「そうなのか。シルヴァさんに伝えておくよ。きっと喜ぶぞ」


 そうこうしているうちに、バターチキンカレーの芳醇な香りが漂ってくる。


「お待たせしました。森精霊のバターチキンカレー温玉乗せです」

「おおおおお!」

「最高においしそうだわっ」

「素晴らしいですっ」


 テーブルに人数分並べられたところで、みんな席につく。


「それじゃあ、いただきます!」

「いただきます!」


 オレの「いただきます」を皮切りに、それぞれ同じく「いただきます」と続く。

 そしてカレーの上に乗せられた温泉たまごにスプーンで切れ目を入れると、艶やかな黄身がとろりと流れた。


 こんなのうまいに決まってるだろおおおおおお!


 そうして口に入れると。


「やっぱりうめえええええええ!!!」


 絶妙なバランスに組み上げられたバターチキンカレーとご飯に卵のまろやかさが絡んだそれは、口の中で幸せという感覚を暴れさせてくる。

 もっともっとと急き立てられるように口に運んでいくうちに、バターチキンカレーはあっという間になくなってしまった。


「いつもならこれで満足するはずなのに、いくらでも食べられそうだわ」

「僕もずっとこの味に侵されていたいです……」

「私こんなにおいしいカレー初めて食べました……」

「毎日でも食べられそう……」


 オレもフィーネもハクも、それから天使たちも、結局2皿ずつ食べきった。

 2人でたくさん買ってきたはずのカレーも、気づけば残り4袋だ。


「早いうちに、アドに話をしておかなきゃな」

「明日行って、仕入れ可能な数や卸値を聞いてきますね」

「おお、助かるよ。いつもありがとうな」


「それなら私は、名門神族の集まりに持っていって感想を聞いてくるわ。今日ちょうど、これから予定があるの」

「……1人で行けるのか?」

「失礼ね! いつも行ってるわよっ! それに1人じゃなくて天使も一緒だから!」

「冗談だよ。それじゃあ任せる」


 モモリンから始まったラテス商会(仮)も、今では100種類以上の商品を扱う大きなビジネスに成長している。


 ――オレ1人ではこんなことできなかったよな。


 今となっては、こうした幸せも日常のワンシーンとしてすっかり見慣れた光景となった。


 この何気ない日常を、幸せを、しっかりと守っていかなきゃな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る