第166話 魅惑のシュワシュワジャム

「――あ。マリルさんとシイさん」


 ちなみにマリルとシイはどちらも水精霊で、マリルは食品加工を得意とする料理担当、シイは服作りが得意な服飾担当だと聞いている。

 水精霊は数が少ないため、それぞれの役割を担いながら1つの家族として暮らしているらしい。


「さっきシルヴァさんにおすすめされて、気になって」

「ふふ、とっても綺麗でしょう? 特別なコラボ商品なんですよ。せっかくですし、味見、してみますか?」


 マリルは、木でできた簡易スプーンでジャムをすくい、オレたち3人にそれぞれ手渡してくれた。

 ジャムは、スプーンの上でプルプルと震えながらもなお、キラキラとした泡を上昇させている。不思議だ……。


 スプーンを口に運ぶと、甘酸っぱいモモリンの風味、そしてやさしい炭酸のようなシュワシュワ感が口の中に広がった。

 いつも食べているモモリンジャムよりもスッキリとした後味で、弾ける炭酸のパチパチとした感触がクセになる。


「ねえこのジャムすごくおいしいわ! 本当にシュワシュワしてる! このままでも無限に食べられそうなくらいよ」

「んんっ! 刺激がたまりませんっ」


「このジャムは、水やお酒やハーブティーで割って飲む用のジャムなんです。このシュワシュワは特別な手法を用いたもので、ほかのものと混ぜても時間が経っても強度が変わらないんです。数年はシュワシュワを維持したまま保存できますよ」

「すごい技術ですね!? しかもめちゃくちゃうまい!!!」

「うふふ、ありがとうございます」


 これはフォルテさんも喜びそうだな。


「このシュワシュワジャム、定番商品にはしないんですか?」

「今はまだお試し段階ですけど、定番商品としての販売も視野には入れてますよ」

「神界で人気が出そうなので、できればぜひ仕入れさせていただきたいなと」


 神界はお茶の文化が盛んだし、これは絶対売れるぞ。


「神界で!? そんな光栄なことはないわ。大変、それなら生産を急がなきゃ」

「すごいわマリル! 私もボトルデザインを急ぐわね。シルヴァさんたちにも話をしなきゃ」


「……これ、プレゼント用のラッピングがされてるのもあると嬉しいわね。神族同士の集まりに持っていくのにちょうどいいわ。珍しいから絶対喜ばれるだろうし」

「! 素敵なアイデアですね! 実はほかの味もいくつか開発中なので、もう少し小さめの瓶3つをセットにする、なんてどうですか?」

「いいわね! お茶会に持っていったときに場が華やぐデザインだと嬉しいわ」


 おお、さすが名門神族令嬢。

 フィーネと一緒に来るとこういうアイデアが出るのか。


「気長に待ちますのでそんなに慌てなくてもいいですよ。満足のいく商品を作ってください」

「完成したら真っ先にお知らせしますね! ありがとうございます」


 みんなで盛り上げていくこの感じ。

 自分がちゃんとその一員になれてる感じ。

 最高だな……。


「とりあえず、あるだけ買っていk」

「おいこらやめろ迷惑だろ。……すみません、10個いただけますか」

「ふふ、お買い上げありがとうございます」

「10個じゃ足りないわよ! せめて100個!」

「黙れ欲張り女神。もっとまわりを見ろ。ほかにも買いたいヤツたくさんいるんだよ。1人で買い占めて恥ずかしくないのか?」

「何ですって!? 私を誰だと――っ」

「ふ、2人とも落ち着いてくださいっ」


 ああ、これ絶対夫婦喧嘩だと思われてる。

 周囲の驚きと好奇の混じった視線が痛い……。


 こうしてオレたちは時間いっぱい精霊祭を満喫し、あらゆる新商品を買って帰ったのだった。

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