第146話 変わっていくカタチ
「というわけだからハク、とりあえず呼び方から変えてみようか」
「!?」
「おまえは家族なんだから、ご主人様はおかしいだろ? 悠斗でいいよ」
「!? は、悠斗……様……」
「呼び捨てでもいいのに」
「い、いえそんな! それはちょっと無理ですっ」
――おふ。
無理って言われると地味に傷つくな……。
まあでも、突然は難しいか。
「じゃあとりあえずは悠斗様でいいや。様はいつでも取ってくれていいからな」
「は、はい……」
「最初はモフモフをそんなふうに扱うの、違和感しかなかったけど。でもこうして見ると、ハクも普通の女の子よね」
「お、おんなのこ――!?」
いや、どう考えても女の子だろ。
なんでそんな驚愕!みたいに驚くんだ。
「君といるといろんな概念が崩壊して、神界の常識がいかに凝り固まってるかが分かるわね」
「そうか?」
「前にもチラッと話したと思うけど、神族って人間に比べて欲が薄いのよ。普通に暮らしてる分には争う必要もないし、最悪何もしなくたって生きていけるから。だから平和ではあるけど、みんなそこにあるもので満足しちゃうのよね」
「平和ならべつにそれはそれでいいんじゃないか?」
人間の世界なんて常にいがみ合い潰し合いの連続で、マウンティングの嵐で、正直戻りたいなんて微塵も思わない。
「私もそう思ってたわ。でも、それって新しい風が吹きにくいってことなのよ。この星だって、こんな運用の仕方があるなんて考えもしなかった。ハクだってそうよ。君がハクをあまり使役しないから、力に余裕が生まれて、ハクの持つ力まで星にいい影響を与えてる。モフモフにこんな力があったなんて知らなかった」
「……実は僕も驚きました。最初はどうして使ってくれないのかと不安も大きかったんですけど、でもだんだん、それは僕のことを大切に思ってくれてるからなんだって分かってきて。そしたらとても温かいものが胸に溢れてきて……」
まさかそんなことでハクの能力を引き出してしまってたとは知らなかった。
オレが家族だと思って接していたことで、少しずつハクの意識も変わっていた――ということか。
「君を間違って召喚しちゃったとき、本当にどうしようって思ったの。取り返しのつかないことしちゃったって。でも、あの時召喚したのが君で本当によかったわ」
「……フィーネにそんな素直に褒められると、なんか照れるな」
「本当は悔しいし認めたくないわよっ! でもここまでこられたら、認めざるを得ないじゃないっ」
フィーネはふんっとそっぽを向く。
最初はただただ面倒を見てもらうしかできなかったけど。
今はこうして認めてもらえて、それなりに役にも立てている。
そして自分の力でハクを手に入れ、「家族」として迎えることに成功した。
――ああ、嬉しいな。
前世ではこんな気持ち、味わえなかったからな。
「――そういえば母様に聞いたんだけど、君うちに入るの? ということは、ハクもうちの一員になるってことかしら」
「あー、まあ、なれたらな」
「!? そ、そそそそんな恐れ多いです! 僕はべつに」
「モフモフが家族として暮らす名門神族なんて、きっとうちが初めてね。みんなびっくりするんじゃないかしら」
「あはは、そうかもなー」
「え、えっと、あのっ、僕はそういうつもりはっ」
慌てふためくハクを見て、オレは改めて幸せを嚙みしめたのだった。
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