第120話 掴みたいものがあるから。

 翌日、家に帰って家事やら何やらをして過ごしていると、フィーネがやってきた。


「許可、取ってきたわ。父様は忙しいからほとんど家にいないけど、母様が面倒見てくれるらしいから。住む場所はどうする? うちの部屋を使うこともできるけど、自分の家から通ってもいいわ」

「自分の家から通う形でもいいかな。あまり長期間ラテスを開けたくないんだ」

「分かったわ。君の家と私の家、【神殿への門】で繋げてあるし一瞬だものね」


 以前フィーネの母親フォルテに呼び出された時の【神殿への門】が、そのまま神殿に設置され放置されている。

 実はリンネに会いに行く際にも使ったが、これはフィーネには内緒だ。


「ちなみに期間って、だいたいどれくらいかかるんだ?」

「それはそれぞれだから何とも。数か月の場合もあれば、数年、数十年かかっても無理なこともある。それにランクBになったらなったで仕事が増えるし、立場が変わってくるから、今後は今までのような好き勝手な生活はできなくなると思いなさいね」

「……ランクCに戻ることはできないのか?」

「できるけど、ランクBからランクCに降格になった時点でハクとはお別れよ? 一度でもランクBに昇格するってことは、神界をまわす側に入るってことだもの。転生者への特例措置なんて受けられないわ」

「…………」


 厳しいな。まあでもそりゃそうか。


「……1つ聞いていいか?」

「何かしら」

「おまえ見てると、とてもそんなハードな生活には見えないんだが」

「失礼しちゃうわね本当に! 私だって忙しいわよっ! でもこの星があまりにイレギュラーだから、母様と相談しつつ特別にここの観察に時間を割いてるのっ!」

「そ、そうなのか。なんかごめん」

「それにうちは名門神族だから。家がもうそういう感じに出来上がってるし、幼少期からランクAとして困らないように育てられてるのよ。仕えてくれてる天使の数も、所有してるモフモフの数も違うしね」


 ――あー。

 つまり途中からランクBを目指す方がハードモードってことか。

 お、オレに続けられるのか?


 いやでも、そうやって変化を恐れて殻に閉じこもってた結果があの社畜生活だ。

 手に入れたいものがあるなら自分から動かなきゃな。

 このままでは、結局オレは上を恐れながら生きなきゃならない。


「分かった。覚悟を決めるよ。だからその、改めてよろしくお願いします」

「……分かったわ」

「それじゃあハク、頑張ってくるよ。しばらくは留守にすることも多くなると思うけど、その間ラテスを頼む。何かあったら遠慮なく連絡してくれ」

「かしこまりました。家のことはお任せください。……でもその、無理はしないでくださいねっ」

「ああ、分かってる。ありがとな」

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