第116話 レイヤー分けで広がる世界
「おまえ社畜なめんなよ。それができたら社畜になんてなってねーよ! それにハクみたいな子ども相手にハーレム作りたいですなんて言えるわけないだろっ」
「こ、子どもじゃないですっ」
「――あ、ああ、悪い」
ハクにとって、そこは譲れないところらしい。
「まあとにかく、レイヤー分けをすればいいってことだな」
「そうね。とりあえずはそれで解決するはずよ。そこそこ力を消耗するから、今ここでやって、温泉で回復してから帰る方がいいかもしれないわね」
「なるほど。んじゃ――スキル【神様:レイヤー分け】!」
人前でこんな恥ずかしいセリフを叫ぶのも、もうだいぶ慣れたな。
そんなことを考えながら世界の再構築を行なっていく。
世界に層が生まれてずれていくような、そんな不思議な感覚があった。
「――これで成功、か?」
「そうね。お疲れ様」
「たしかに結構体力消耗するな。久々に少し体が重い……」
「旅館で少し休んで、それから温泉に浸かるといいわ。ここの温泉、君が熱をエネルギーに変えたおかげでだいぶ成分が濃いから」
「ああ、じゃあそうさせてもらうよ」
オレはハクとフィーネから離れて旅館に戻り、少し休むことにした。
――レイヤー分けができたということは、精霊も人族もラテス内を自由に行き来できるってことか。
フィーネの説明によると、ラテスという世界自体は背景として固定されているが、各種族の居住区はそれぞれのレイヤー上に配置され、ほかの種族には認知できなくなるそうだ。
つまり、人族にとってはラテスの森はただの森だし、精霊たちにとってはラテス村や要塞都市エクレアがある近辺は未開拓な平野、ということになる。
もちろん、火山島にある炎精霊と山精霊が暮らす村も人族には認知できない。
グラス高原やミステリ山脈にも自由に行けるようになるのか。
あのドラゴン――ファニルは元気にしてるかな。
――あれ、待てよ?
今、ラテスにいるドラゴンってファニルだけだよな。
となると、ファニルにとってこの世界は、自分とオレとハク(とフィーネ)しかいない世界になったってことか?
それはなんというか――少し可哀相な気がしなくもない。
まあ、ファニルにとってはどうでもいいことかもしれないが。
でも、強大な力を持つドラゴンを複数住まわせるには、ラテスはまだまだ未開拓な部分が多すぎる気もする。
あいつは本来、リンネがこの星のバランスを崩すために連れてきたわけだし、そんなのが何体もいたら星に悪影響が生まれる可能性だってある。
うーん。
……まあいいか。とりあえず寝てから考えよう。
オレはスキル使用の疲れを癒すべく、深い眠りに落ちていった。
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