第108話 「飼い主。私は飼い主なのよ!」

「そ、それで、何か用か?」

「ああ、そうだったわ。さっきはその、ちょっと態度が高圧的だったかなって思ったの。だからごめんなさい」

「――え?」

「君は前世で、そういうことで嫌な思いをしてきたものね。べつに他意はなかった、というかちょっとした冗談のつもりだったんだけど、上に立つ者としてもっと配慮すべきだったわ」


 フィーネは視線を逸らしながらではあったが、そう謝ってくれた。

 まあ冷静に考えればオレがおかしかっただけで、べつにこいつが謝るようなことでもなかったと思うけど。

 実際、正論だとも思うし。


「いや、こっちこそごめん」

「君は管理対象というより友達みたいな感じだから、つい素で喋っちゃうのよ」

「オレもだよ。フィーネが上司――というか雇用主?なのか? とにかくそんな感じなのは分かってるんだが、なんというか普段のポンコツ具合がだな」

「ポンコツ!? 今またポンコツって言った!?」

「あ」


 しまった本音が出てしまった。

 フィーネは顔を真っ赤にし、ふるふると震えながら涙目で口を膨らませている。


「まあそう怒るなよ。おまえのそういうとこ、それはそれで魅力だと思うぞ」

「そんなわけないでしょ! つくならもっとマシな嘘つきなさいよっ!」

「いや嘘じゃなくて。なんかこう、不完全な方が、こいつのために頑張ろうって思うじゃん」

「――なっ! はあっ!?」


 フィーネは、さっきとは違う感じで真っ赤になり、口をパクパクさせている。


 ――あれ、これよく考えたらけっこう恥ずかしいセリフを言ったのでは?

 か、顔が熱くなってきた……。


「そ、そもそも! 私は君の上司でも雇用主でもないわよっ!」

「じゃあオレはおまえにとって何なんだ?」

「え……そうね。しいて言うなら、拾ってしまった子ども――かしら。いや、ペット? 子犬? ああ、そうね。飼い主。私は君の飼い主なのよ!」

「おい喧嘩売ってんのか」


 これを平然と「分かった!」みたいに言い放つってどんな神経してんだこいつ。


「いいじゃないペット! 私は優しいから自由だし!」

「じゃあオレがおまえをペットにしてやるよ」

「……それはできないのよ。だって私には、名門神族としての務めがあるもの。責任放棄はできないわ」


 フィーネは一瞬、寂しそうな、辛そうな顔をする。


 ――っていやいやいやいや。

 ここでそんな顔されても困るんだが!?


「まあでも君にとってはそんなこと問題じゃないの。私に遠慮なんてしなくていいし、顔色を窺う必要もないの。自分のペースで自由に生きていいのよ。あ、でも私のことを馬鹿にするのは禁止!」

「今はべつに言うほど馬鹿にしてないよ。何だかんだで、オレおまえの性格好きだからな。ある意味尊敬もしてるんだと思う」

「は、恥ずかしいセリフも禁止っ! 分かったらもう寝なさい! おやすみ!」

「ん。じゃあおやすみ」


 フィーネが逃げるように去ったあと、オレとハクは、キングサイズと思われる広く豪華なベッドで眠りについたのだった。


 ――うん。明日になったらハクの部屋も作らないとな!



翌日、家を一晩でログハウスから神殿に変えたことで、ラテス村やエクレアの住民たちを混乱させざわつかせてしまったのは言うまでもない。

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