第106話 同じ人族ではないからこそ

 火山島を炎精霊たちに任せ、オレとハクはいったん帰宅することにした。


 ――これからあの島がどうなっていくのか楽しみだな。


 開拓を精霊たちに任せると、新しい景色が見られるというメリットがある。

 それに火山なんてどう開拓したらいいか分からないし、分からないことは専門業者に任せるのも大事なことだ。


 火山島の探索に時間がかかったため、帰宅する頃には夜になっていた。


「ただいま」

「おかえりなさい! おなかがすいたわ」


 開口一番に言うことがそれなのか。

 こいつ本当、名門神族とは思えないキャラだよな。

 まあいいけど。


「すぐに夕飯の支度をしてきます」


 ハクはパタパタとキッチンの方へ走っていった。

 こいつはこいつで、相変わらず健気というか何というか……。


「そういやフィーネ、あの天空にある神殿のことだけど」

「! ついに君もあそこに暮らす気になってくれたのかしら!?」

「いや、まあ半分正解半分ハズレってとこかな。あの神殿だけどさ、この星に持ってくることはできないか?」

「――えええ。できなくはないけど、どうしてそんなに星に住みたがるの? 君は今、神族なのよ? こういう星は本来、神族が住む場所じゃないんですけど」


 フィーネは呆れた様子でため息をつく。


「最初にここに送り込んだのはおまえだろ」

「あの時は、君はまだランクEで正式な神族ではなかったからよ」

「そうは言われても、そんなほいほい住む場所が変わるのは性に合わないんだよ」

「……はあ。まあべつにダメってわけじゃないんだけど」


 ということは、いけるってことか。


「ラテス村がだいぶ発展してきて、今や村っていうより街だろ。いつまでも領主であるオレの家がログハウスってのもどうかなと思ってさ」

「君は領主じゃなくて神様でしょ!?」

「住民たちは領主だと思ってるんだよ。だからこの家をあの神殿に変えたい」

「……分かったわよ。まあ神様活動のやり方に口出しはしないって言ったしね。それなら、今やっちゃっていいかしら?」


 ――え。


「家の中にあるものとかどうなるんだ?」

「どこか一室に全部まとめて置いておくから、あとで自分たちで選別しなさい」

「おお、助かるよ。ありがとな」

「じゃあ外で待ってて」

「お、おう」


 俺とハクが家から出ると、ログハウスが光り始め、サラサラと光の粒になって消えてしまった。

 そしてその場所に、天空にあった神殿が姿を現す。


 この大がかりな作業を、フィーネはものの1分ほどで完了させた。

 フィーネもちゃんとまともな仕事ができたんだな……。


 増築や改築をしながらも約2年ほどお世話になったログハウス。

 それが消えてしまうのは寂しさもあるが、時には体裁も大事だ。

 きちんとすべきところはきちんとしておかないと、舐められて余計ないざこざが起こるかもしれない。

 誰かが下剋上を目論む可能性だってある。


 オレが絶対的な存在として君臨しておくことは、恐らくラテスの平和のために必要なことだ。

 同じ人族ではないからこそ。

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