第103話 地図だけでは見えないモノ

「……それが本当にすごいところですよね。狙ったって難しいことを、無自覚にやってのけたんですから。もう天才以外の何ものでもないです」


ハクの表情から、心の底から尊敬してくれているのだということがひしひしと伝わってくる。


今までにも多くの神様を見届けてきたというハクが、ここまで期待と尊敬の念を抱いてくれている。

それはやっぱり、男としてとても嬉しい。

でも。


「ハクはいつもそうやって褒めてくれるけど、オレがこの道を選べたのはハクのおかげなんだ。だからハクもすごいんだぞ」

「ふえ!? ぼ、僕はそんな! 僕より優秀なモフモフなんていくらでもいますよっ」


ハクは真っ赤になって慌てた様子で首をぶんぶんと横にふり、手をバタバタさせている。

そんな謙遜しなくてもいいのに。

でもそんな仕草もまた可愛い。


「オレはほかのモフモフのことは知らないけど、でもおまえと一緒じゃなかったら、生きる意味を見い出せずぼーっと過ごしてたんだろうと思うよ」

「……そ、そう、ですか?」

「うん。オレは本来、こんな積極的に動くタイプの人間じゃないからな」


こいつがいなければ、こんなふうに土地を開拓しようとも思わなかっただろう。

自分の周囲だけ適当に作りこんで、最低限の環境の中でダラダラしている自分が容易に想像できる。

いや、そもそもそれすらできず野垂れ死んでいたかもしれない。


「……そ、そんなふうに言ってもらえたのは初めてです。僕は本来、神族が快適にラクに神様活動をするためのアイテムなので。でも、神族が僕のためにわざわざ大変なことをするなんて、そんなこと許されるんでしょうか」

「大変なことじゃないよ。楽しいこと、だ」


ラクをするのはいつでもできる。

でも、星をこうして1から開拓できるのは今だけだ。


今、目の前には美しく輝く湖が広々と広がっていて、その奥には巨大な火山が聳えている。

現在は噴火はしていないが、山のあちこちから白い湯気が湧き出ていて、山の内部に活火山としてマグマを有していることが目に見えて伝わってくる。


――この光景、オレの力によって生まれてるんだよな。


この震えるような感覚は、きっと地図を見て神様アイテムを配置しているだけでは得られないものだ。


「今目の前に広がってるのは、オレが創った生まれたての景色なんだよな。そしてこの景色を見たのはオレとハクが初めてだ。そんな特権、得ようと思って得られるもんじゃないよ」

「……ふふ。そうですね。それに、こうした古来のやり方は効率が悪いと敬遠されがちですけど、実は神様の力が隅々まで及ぶ最速の方法なのかもしれません。星がご主人様の力と共鳴しているゆえの現状ですから」


ハクはそう言ってしゃがみ込み、湖の水を両手ですくって眺める。

湖の水は、遠くからはエメラルドグリーンに見えたが、こうして近づくと極めて透明度が高く不思議なほどキラキラと輝いていた。


「……この星にご主人様の力が根付いていると思うと、ここにあるすべてが愛しいですね」


――こいつ、普段は無表情に毛が生えた程度の表情しか見せないけど、たまにすごく大人っぽい顔もするんだよな。

見た目は幼くても、やっぱり長い時を生きてきた神獣だってことか。


優しく穏やかな表情を浮かべるハクの横顔を見て、オレは不本意ながらドキッとしてしまった。

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