第98話 帰宅、そしてドラゴンの鱗
「じゃあオレはそろそろ帰りますね。あまり遅くなるとフィーネが不審に思うかもしれないので。話してくれてありがとうございました」
「それならお詫びは近々改めて」
「いいですよべつに。悪いヤツじゃないってのは分かったので。それじゃ」
「……ハルト君は若いのに本当に大人ね。でもうちまで送るわ。あの門は一方通行だし、あなた1人じゃ帰り方分からないでしょ」
「――あ」
オレの様子を見て、リンネはクスっと笑う。
あのまま去れればかっこよかったのに!!!
「……すみませんお願いします」
◇ ◇ ◇
「ただいまー」
「! おかえりなさいませご主人様」
「ちょっと遅かったじゃない心配したのよ!?」
「ああ、悪い。住民たちの相談に乗ってたら遅くなった」
「まったく……。それで、土地の開拓は進んだのかしら」
――あ。
いろいろありすぎてすっかり忘れてた。
そういやそのために出かけたんだっけか。
「今日は別な用事を思い出して予定変更したんだ。また明日行ってくるよ」
「そうだったのね。まあ君の神様活動に口を出す気はないから、好きにするといいわ。それよりおなかが減ったから何か食べましょう」
こいつが単じゅ――深く追求するタイプじゃなくてよかった。
晩ごはんを食べ終え、フィーネは自室へ戻っていった。
リビングに、オレとハク2人だけになった。
「あの、リンネ様の反応はいかがでしたか? 何か怖い目に遭ったりしませんでしたか?」
「ああ、平気だよ。素直に話して謝罪してくれた。フィーネに黙っておく話も了承してもらえたよ。心配かけて悪かったな」
ほっと安堵するハクの頭を撫で、安心させるように笑顔を向ける。
相変わらず耳の反応が活発だ。
「そういやそっちはどうだった?」
「ファニルさんは無事ミステリ山脈に送り届けました。なるべく誰も来なさそうなところを探すと言っていましたよ。――それからこれを」
「うん?」
ハクは赤くキラキラ輝くガラス片のようなものを差し出した。
全部で10枚くらいある。
「……これは?」
「ファニルさんの鱗です。これを食べると、身体能力が向上するそうですよ」
「そうか、ありがとな。で、これどうやって食べるんだ?」
ガラス片とはいっても、厚みがそれぞれ5㎜~1㎝、サイズも1枚3㎝以上はある。
飲み込むには大きすぎるし、鋼鉄のように固くてかみ砕くと怪我をしそうだ。
「粉末にして飲むのがいいそうです。別な世界では貴重な能力アップアイテムとして、非常に高価な品として扱われていたと言ってました」
「なるほど。ハクもいるだろ? 半分ずつ飲もうぜ」
「えっ? 僕はいいですよ。ご主人様用にいただいたものですから」
「おまえが強いとオレも安心だし、餅は餅屋ってやつだ。オレが多少強くなったところで、おまえやファニルには勝てないだろうからな」
「そ、そうですか? では僕も少しいただきますっ」
ハクはそう言って3枚ほど手に取ると、まるで煎餅か何かを食べるかのようにバリボリとかみ砕き咀嚼し始めた。
「え、お、おい!? 大丈夫なのか!? さっき粉末にって」
「僕は平気れす。カリカリしてておいひいれす」
「……そ、そうか」
オレは目の前の忠実な美少女の頑丈さを改めて見せつけられ、何となく男として敗北感を感じずにはいられなかった。
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