第97話 窮鼠(きゅうそ)はねずみだって嚙む
「……よければ話聞きますよ」
「……ありがとう。うちは3人姉妹でね、上の姉はとても優秀なの。才能に差がありすぎてまったく太刀打ちできない。でもそれは諦めてるからもういいの。何をしても姉様に敵うわけないもの。けどフィーネは昔から評価に興味がなくて、好き勝手して、いつも大人たちを困らせてたわ。私にとって、そんなフィーネの存在が救いだったのよ」
リンネは、家の中での自分の立ち位置や扱いについて話してくれた。
「でもハルト君がきて、【完全未開拓惑星】だったラテスがどんどん力を持ち始めて、モモリンやオレンが生まれて。最近は姉様ですらラテスに注目してる。このままだと、私の居場所がなくなってしまう。だからダンジョンごとドラゴンを召喚して、強制契約させてあの場所に設置したの」
「それは、オレやハクを殺すためですか?」
「……えっ? ち、違うわ! まさかダンジョンに入るなんて思ってなかったのよ。ドラゴンの感情はね、その地に大きな影響を与えるの。だからストレスを与えることで、その影響を受けて鉱石力も弱まると思ったのよ」
どうやら嘘ではなさそうだ。
まあ、オレも周りが見えてなかった部分があったかもしれない。
姉の存在は予測できなかったにしても、「神界」という世界を知った時点で周囲の目があることに気づいてフィーネに話すべきだった。
「オレのせいで不快な思いをさせてしまって申し訳ありませんでした。でも、オレにとってはラテスがすべてなんです」
「ハルト君はただの被害者よ。フィーネの説明が足りなかったからか手法がイレギュラーではあるけど、神様として間違ったことは何もしてないわ。……それで、フィーネは何て言ってるの? あなた1人で来たってことは、怒ってるってことよね?」
リンネは落ち込み、そして震えていた。
これが家族に知られれば、それこそ積み上げてきた信頼が地に落ちる。
才能よりも人柄や勤勉さで認められてきたリンネにとって、それは居場所を失うも同然だろう。
これっきりにしてくれるなら、そこまで辛い目には遭わせたくない。
「実は、フィーネにはまだ話してません」
「――え?」
「その件でお願いがあります。どうか、このことはフィーネには黙っててもらえませんか?」
「……どういうこと?」
リンネはオレの提案の意図が読めない様子で戸惑っている。
「フィーネはリンネさんのことが大好きです。追いつきたい、認めてほしいってあいつなりに頑張ってるんです。だから今回のことを知ったら、きっととても悲しむと思うんです」
「…………でも私は」
――たぶん、他にもいろいろやらかしてんだろうな。
まったく姉妹そろってしょうがないヤツらだ。
「誰だって魔が差すことくらいありますよ。もちろんだからってやっていいわけじゃないですけど。でも今回は、運よく大事にはならなかった。ファニルもオレが契約を上書きして無事です。なので反省して二度としないと約束してくれるなら、オレも誰にも言いません」
「……分かったわ。ありがとう。本当にごめんなさい」
リンネはそう言って泣き崩れてしまった。
罪悪感はあったんだろうな。
根は悪いヤツじゃなさそうだし、フィーネを心底嫌ってる様子もない。
それでも自衛のために罪を重ねていたのなら、本人も苦しかったはずだ。
まあでも、これで一件落着かな。
ああああああああああああああよかったあああああああああああああ!!!
散々マインドコントロールされてきた元ブラック企業の社畜としては、上に逆らうなんて生きた心地がしない。
本当、消されたり潰されたりしたらどうしようかと。はあ。
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