第96話 リンネの説得。そして――
「ええと……実は、ラテスの森の中にダンジョンを見つけまして」
「…………そう」
「最初はまたオレが無意識のうちに生み出したんだろうと思って、ハクと2人で中に入ってみたんです。でも、洞窟内の様子がおかしくて」
「――待って。ハルト君、ダンジョンに入ったの?」
「……え?」
そこに驚くか。
いや、あんなんあったら気になって入ってもおかしくないと思うんだが。
「あ、ええと……だってダンジョンって普通はモンスターもいるし、戦闘になることもあるでしょ? ハルト君はそういうの慣れてなさそうだから」
「ええ、まあ。でもラテスの管理者として放置するわけにもいきませんので」
「……そ、そう。でもここにいるということは、大丈夫だったのね」
リンネは頭を抱え、ため息をつく。
それは「残念」というため息ではなく、「安堵」のように思えた。
ということは、オレを殺そうと思ったわけではないのか?
「……まあ、結論から言うと無事でした。でもそのダンジョンがその、少しおかしかったんですよ」
オレは洞窟内で起こったことの一部をリンネに話してみた。
鉱物に触れようとしたら電流のようなものが流れて弾かれたこと。
それからスキルも神様アイテムも制限されていて、一部使用できなかったこと。
「それは大変だったわね。……でも、なぜそれを私に? フィーネに、私に聞くよう言われたのかしら?」
リンネは探るような目でこちらを見ている。
オレが犯人を知っていると気づいたのかもしれない。
リンネはランクAの名門神族で、オレはランクCの中級神族だ。
リンネが口封じのためにオレを消そうと考えれば、オレは家に戻れなくなるかもしれない。
もしそうなったら――神様不在となり、ラテスが滅んでしまう。
「……今回の件で、オレは自分の未熟さを痛感しました。ファニルがいなければ、ダンジョンから出られず閉じ込められていたかもしれません」
「ファニル!? よく無事でいられたわね」
「食料を提供したんです。そしたら気に入ってくれて。でも今回は事なきを得ましたが、いつまたこういうことがあるか分かりません。それで――たまにでいいので、神様活動の相談に乗ってもらえないでしょうか?」
「――え? で、でも」
問い詰められると思っていたのか、リンネは動揺を隠せない様子だ。
「ラテスは今イレギュラーな状態にあって、いつ何が起こるか分かりません。だから頼れる仲間がほしいんです。フィーネがいつも自慢げに話す”姉様”が仲間になってくれたら、そんな心強いことはないなと思ってます」
「……どうして? だって本当は気づいてるんでしょ?」
「オレはラテスの管理者として、住民たちが幸せに暮らせる星を作りたいんです。今はそのことしか考えてません。オレは成り上がりの一般神族ですからね」
こちらに敵意がないと分からせるため、オレはそう笑ってみせる。
頼むから了承してくれ――。
リンネのしたことは、一歩間違えばどうなっていたか分からない危険なことだ。
恐らく、母親であるフォルテに伝えればそれなりに処罰されるだろう。
でも、苦しむリンネの気持ちも分かる。
努力が報われず、その横で呑気に生きてるヤツがあっさり成果を上げて認められたら、そりゃ辛いし悔しいよな。
けど、そこで手を出したら負けなんだ。Wで負けるだけなんだよ。
だからできればここで反省して、今後は自分の速度で自分の魅力を磨いてほしい。
真面目にコツコツ頑張る努力、それから名門神族としての強さは本物なのだから。
「――――私の負けだわ。ごめんなさい。……あなたもフィーネも、それからハクもかしら。失望させちゃったわね。私は名門神族として、姉として、失格だわ」
リンネはそう、悲しげな笑みを浮かべて涙をにじませた。
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