第95話 フィーネとラテスを守るために

「まあとりあえず帰ろうか。ファニル、おまえも来るだろ?」

「? どこにじゃ」

「オレの家に決まってるだろ」

「なるほど我を監禁しようということか」

「違うわっ! ダンジョンなくなったし行くとこないだろ」


 まったくこのドラゴンとんでもないな。

 ハクに変態だと思われたらどうする。


「……悪いが、我は集団生活は好まん。もし許されるなら、どこか1人になれる場所でひっそりと暮らしたいんじゃが」


 ――あ、なるほど。

 たしかにドラゴンは群れてるイメージないな。

 1人になれる場所か……


「それなら、このラテスの森を北西に進んだ先にミステリ山脈ってところがあるんだが、そこはどうだ? 今なら誰もいないし自然も豊かだぞ。近くに湖もある。モモリンの木も生やしてやろう」

「おお、それはいい。そのミステリ山脈とやらのどこじゃ」

「どこでも。今のところあそこに行けるのはオレとハクだけなんだ。だから今のうちに居心地のいい拠点を探しておいてくれ」


 いずれエクレア側から回れるようにするつもりだが、森を避けての回り道になるし、恐らくもうしばらくはかかるだろう。


「なんじゃお主いいヤツじゃな。奴隷にされた時はどうなることかと思ったが、これなら仲良くやっていけそうじゃ」

「いやその件に関しては何というか本当に」

「我が住み着いた土地は<ドラゴンの守護>によって守られる。エネルギーが集まりやすくなるゆえ、お主らにもメリットは大きいはずじゃ。我を怒らせなければ、じゃがな」


 ――あれ。

 これは一層リンネの嫉妬要因が増えるのでは?


 まあでも、この星を豊かにするのもまたオレの義務だ。

 守ってもらえるならそれに越したことはない。


「オレはこれからリンネのところに行ってくる。ハク、悪いがファニルをミステリ山脈まで連れて行ってくれるか?」

「分かりました。ファニルさん、行きましょう」

「うむ。では世話になったな。用があればいつでも呼ぶがいい。この【絶対契約】の首輪によって自動召喚されるじゃろう」

「お、おう」


 ◇ ◇ ◇


 オレは自宅に戻り、フィーネに気づかれないようこっそりと【神殿への門】からフィーネの実家へ向かった。

 以前、フィーネの母親に呼ばれた時にフィーネにもらったものだ。


 門から先も、以前通った場所は何となく記憶している。

 が、さすがに神殿の中に勝手に入るわけにはいかない。

 オレは、ステータス画面からリンネとの接触を試みることにした。

 この間うちに来ていた時に、連絡先を聞かれて交換したのだ。


 リンネは、オレからの連絡に気づくとすぐに出てきてくれた。

 オレがダンジョンを攻略したことにはまだ気づいていない様子だ。


「ハルト君、どうしたの急に。フィーネと何かあった?」

「いえ。突然お邪魔してすみません。今日はリンネさんにお話があってお伺いしました」

「……私に? 分かったわ。とりあえず上がってちょうだい」

「ありがとうございます。お邪魔します」


 オレはリンネに連れられて、前回とはまた違う応接室に案内された。


「お客様ですか?」

「ええ、お茶を用意してちょうだい」

「はいっ」


 リンネは天使にそう命じてからオレを席に座らせ、自分の向かい座った。


「この間は泊めてくれてありがとう。おかげでフィーネの様子も分かったし、楽しい休暇が過ごせたわ」

「いえ、あんな場所ですみません。でも昔からログハウスに憧れがあったので、オレにとっては理想の城なんです」

「ハルト君は面白いわね。男の子らしくていいんじゃないかしら」

「あはは。男の子って歳じゃないですけどね」


 こうして話していると、リンネがあのダンジョンを仕掛けた犯人だということを忘れそうになる。

 というか、本当にこいつなのか?


「失礼します。お茶をお持ちしました」

「入って」


 天使は温かい紅茶とケーキを2人分テーブルに置き、一礼して部屋を出て行った。


「……それじゃあ、お話を聞かせてもらえる?」

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