第94話 この星も、姉妹の絆も守りたい

「――そういやファニル」

「なんじゃ?」

「おまえさっきリンネとか言ったか?」

「そうじゃリンネじゃ。あやつが我をこの星に転移させたのじゃ」


 ――聞き間違いだったらと思ったが、どうやら犯人はリンネで間違いないらしい。

 でもいったいなんで。

 あんなに仲良さそうに見えたのに。

 少なくとも、フィーネは心の底からリンネを慕っているように見えた。


「いったいどういう経緯で契約することになったんだ?」

「……恐らくあれは嫉妬じゃな。リンネは真面目な努力家じゃ。名門神族の家に生まれて、その名に恥じぬようずっと努力を続けてきた子じゃ」

「な、なるほど……?」


 リンネはうちにいる間も、決して仕事をさぼらなかった。

 それにフィーネと違い、常に名門神族という立場を意識しているようだった。

 だからファニルの言っていることは正しいのだと思う。


 でも。嫉妬っていうのはいったい――。


「真面目にコツコツ積み上げてきたリンネにとって、この星のようなイレギュラーな存在は邪魔なんじゃよ。しかも所有者が妹とあっては、リンネの立場もなかろう。我もいくつかの世界を渡ってきたが、こんなに星の力が強い場所は初めてじゃ」


 ――そうか。そういうことか。

 オレにとってはこの星がすべてで、だからこの星を良くしたいと思って今まで頑張ってきたけど。


 でも本来この星は、無数にある世界の中の1つの惑星にすぎない。

 名門神族であるフィーネやリンネは、星をいくつも所有し管理している。

 そして当然、オレなんかよりもずっと実績を見られているはずだ。


 そんな中で突然突出したエネルギー量を持つ星が現れて。

 しかもそれが偶然で理由も分からなくて。

 さらにはモモリンなんていう特産品が登場してめちゃくちゃ評価されて。


 そんなことが起こったら、そんなの悔しいに決まってる。

 嫉妬するに決まってる。

 ずっと頑張ってきたからこそ、それが否定されたような気がして悲しかったのかもしれない。


 そうしたいざこざは、前世の会社でも嫌になるほど見てきたはずだったのに。

 オレだって何度もそういう思いをしてきたのに。

 なのに今の今まで考えが及ばなかった。


 ――やらかしたなあ。

 モモリンについて根掘り葉掘り聞かれたの、あれそういうことか。


 でも、だからと言って神様活動で手を抜くわけにはいかない。

 俺には、連れてきた住民を幸せにする義務がある。


 それにフィーネにだって成功してほしい。

 たしかにあいつは雑なところがあるけど、でも結局、オレはあいつのあの性格に救われてるのだ。

 だからできることならずっと自由に笑っててほしい。


「――ハク、ファニル、このことはフィーネには黙っておいてくれ」

「わ、分かりました」

「我は構わんが、それでいいのか? これが失敗に終わったと気づけば、また何か仕掛けてくるやもしれんぞ」

「そうなる前に、オレがリンネを説得します」

「……分かった。ならばお主に任せるのじゃ」


 リンネはもう帰ってしまったし、会うには神界にあるあの屋敷に行くしかない。

 正直敵地に乗り込むようなものだ。


 本来ファニルは、オレやハクの手には負えない存在で。

 ということはつまり、向こうはそれだけの強い意志があって事を起こしたということだ。


 ――はあ。まいったな。

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