第93話 いたって普通の絶対服従契約って何だよ!


ファニルはその場に倒れ、息も絶え絶えにもがき苦しんでいる。

これが神の持つ力なのか――。


「大丈夫です。ファニルさんをダンジョンの外に出して、手をかざして僕が言った通りに唱えてください」

「わ、分かった」


オレはハクに促されるまま苦しむファニルをダンジョンから出し、手をかざして契約の言葉を唱えた。


「汝すべての契約を破棄し、ラテスの神、神乃悠斗のサーヴァントとして再生せよ。スキル【絶対契約】!」


30超えのおっさんがこんな厨二病全開な台詞を叫ぶなんて恥ずかしくて死にそうだが、ファニルに死なれるよりはマシだと自分に言い聞かせてどうにか言い切った。


――というかこんなスキル覚えてなかったはずだけど、大丈夫か?


そう思ったが、いらぬ心配だったようだ。

ファニルの首についていた首輪はパキッと音を立てて破壊され、同時に青白い電流も消え去った。

そしてそこに、新たな首輪が現れた。


「ぐ、う……がはっ」

「ファニル!」


ファニルは呼吸を荒げて咳込んでいたが、しばらくすると落ち着いたようで、涙目で首をさすりながら起き上がった。


「た、助かった――が!!」

「え?」

「お主なんという契約をしてくれたんじゃ!」

「ええ。だって従者になるって……」

「お主にとって、従者と奴隷はイコールなのか!?」


ファニルは泣きながらオレの肩を掴み、激しく揺さぶってくる。

というか今、奴隷って言ったか?


「おいハク、あれって……」

「? いたって普通の絶対服従契約です。……何か違いましたでしょうか?」


ハクはぽかんとした様子で首をかしげている。

ハクううううううううう!!!


「お主の従者はいったいどういう感覚をしておるのじゃ! い、いや、アイテム?」

「と、とにかく揺さぶるな落ち着け!」

「――っ!」


オレがそう言うと、ファニルの動きがピタッと止まった。

止まった、というより、これは強制的に止められたような――


「うわあああああん! 我はもうお終いじゃ! きっとあんなことやこんなことを命令されて、為す術もなく堕とされるのじゃ!」

「ちょ、おま、人聞きの悪いこと言うな!!!」


とんでもない誤解を招きそうなことを叫びながら泣き崩れるファニルに、そして何が起きているのか分からない顔をしているハクに、オレは眩暈を起こしそうになった。


が、そんな混乱の中、背後にあったダンジョンへの入り口はまるで何事もなかったかのように消え失せ、ただの崖に戻っていた。

そして――


「……ん? 何だこれ? 宝箱?」


ダンジョンの入り口があった付近に、幅50㎝程度の宝箱が置かれていた。


「我はダンジョンのいわばラスボスじゃ。我を攻略したことでダンジョンが消え、報酬として我が守ってきた宝がアイテムとして落とされたのじゃ」

「え、貰っていいってことか?」

「よいよい。我にとってはどうでもいいものじゃ。人が寄ってくることでエサ探しがラクだったものでな。おびき寄せるために置いておったのじゃ」

「え、エサ……?」

「我にとって、人族や動物は貴重な食糧じゃからな」


や、やっぱりドラゴン怖ええ……。


「……なんじゃ、我が怖いのか? 心配するな。お主とハクに手を出したりはせん。我は今お主の奴隷じゃからな。そんなことをしようとすれば、文字通り首が飛んでしまうわ」

「そ、そうか。なんかごめん」

「まったく……まあでも、契約の上書きがなければ今頃どうなっていたか。お主らには感謝しておるぞ。これからよろしくなのじゃ」


ファニルはそう、手を差し出してきた。

こうしてオレとファニルは握手を交わし、思いがけず仲間となった。

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