第92話 ドラゴン、おまえもかああああ!
ファニルによると、このダンジョンは星に悪い影響を及ぼすらしい。
いったい誰が何の目的でこんなものを設置したのか分からないが、さすがにこんなことをされて放置するわけにはいかない。
ラテスに来て、オレは自分で動くことの大切さを学んだ。
置かれた状況に屈服して耐えていても、大抵は状況が好転することなんてない。
要領が悪くても、手探りでも、考えて行動したから今がある。
前世でも今みたいに動いていれば、きっと違う未来があった――かもしれない。
『分かった。契約しよう。どうしたらいいか教えてくれ』
『……まずはせめて、姿を見せてくれんか。もういいじゃろう?』
『実はアイテムを使っててな。戻り方が分からないんだ悪いな』
『……えええ。ま、まあよい。とりあえず言えることは、このダンジョン内はお主に不利な状況じゃ。契約の更新に失敗するかもしれぬ。一度入口付近まで戻ろう。ついてこい』
ファニルはそう言って、来た道を戻り始めた。
オレとハクは互いに目配せをして頷き、ファニルのあとに続いた。
どうやら悪いドラゴンではなさそうだ。
入り口付近まで来ると、ファニルは立ち止まった。
『この姿で歩き回るのは不便じゃ。それにこの身長差ではお主らも怖かろう。少し待っておれ』
そう言うと同時に、ファニルの体が炎に包まれた。
炎の塊は圧縮されて徐々に小さくなり、しまいにはハクと同じくらいのサイズまで縮んで、そして――
なんと真っ赤な美しい髪を持つ美少女へと変貌した。
「――はあ!?」
「はあとは何じゃ失礼な。この姿も結構お気に入りなのじゃぞ!」
「い、いやごめん。ちょっとのじゃロリの登場は予測できなかった」
「の、のじゃ……何じゃ?」
と、そこで。
オレとハクの【透明の飴】の効果が切れた。
「うお!? な、なんじゃお主ら2人だったのか!」
「はい。初めまして。【何でもしてくれるモフモフ】のハクと申します」
「……何じゃそれは」
「神様のアイテムの一種です」
「な、なるほど? まあよい。それでは契約に移るとしよう。じゃが、その前に条件の確認じゃ」
――案外普通そうでよかった。
こういう強キャラがロリに変わる展開が起きた場合、そいつに強すぎる個性が潜んでいることが非常に多い。
前世のマンガや小説で培ったオレの豆知識だ。
「我が求めるのは、我が満足できるだけの食料じゃ。特にあのリンゴのようで少し違う謎の果実はよい。肉以外をあんなにもうまいと思ったのは初めてじゃ」
おまえもモモリンか!!!
なんかもう、モモリンだけで無双できる気がしてきた……。
「あれはモモリンと言って、このラテスの特産品だ。ぶっちゃけめちゃくちゃ豊作だから、たくさん食べていいぞ」
「あれだけの果実が豊作!? この地はなんと豊かな土地なのじゃ。訳も分からぬままリンネとかいう神に飛ばされた時はどうしようかと思ったが、ここに来れてよかったかもしれん」
「――え、今なんて」
と、その時。
「ぐ……う……あああああああああああ」
ファニルが首を抑え苦しみ始めた。
電流のような青白い光が、ファニルの首にまとわりついている。
「な、何だ!?」
「これは――神罰ですね。恐らく、契約の上書き前に契約者を明かしてしまったので、反逆行為とみなされたのでしょう」
「どうしたらいいんだ」
「契約の更新をしてください。早くしないと、ファニルさんが死んでしまうかもしれません」
「け、契約なんてやったことないし、やり方が――」
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